移動幸福回路について

 

小松左京が原作の、映画「日本沈没」(1973年版)で、日本沈没を予言した田所博士は、劇中でこんな事を言うシーンがあります。(うろ覚えの記憶なので、ドンピシャ、正確ではないかもしれません)

 

『研究者にとって、一番重要なのは、「想像力」と「直観力」だ!』

 

1973年は、私が14歳の時です。それ以降、この教えが、私の人生の多くの部分を支配することになるとは、夢にも思っていなかったのですが、当時の中学生の感性では、非常にインパクトのあるものでした。

 

時は過ぎて、私が55歳の時に、出版コンサルティングの勉強会に参加し、最初の授業の時に、講師の先生から、以下の質問が投げかけられました。実は、小松左京さんから学んだ教えには、「続きがあった」のです。

 

「著者にとって、想像力と直観力は、○○に比例する」

「この○○の部分を、みんなでブレーンストーミングしてみましょう」

 

32名の参加者は、出版を考えている専門分野の方が集まっています。皆さん、それぞれの領域で、多くの実績を上げている、「意識高い系」の面々なので、さまざまな回答が寄せられました。

 

例えば、比例する○○の回答として、「好奇心」「読んだ本の数」「基礎学力」「幼少期の体験」などなど、どれも真っ当な回答です。この○○の部分の答えは、「絶対こうだっ」というものは存在しません。それぞれの考えに沿ったものがあって良いのです。答えが一つではない命題を論じ合うのは、楽しいです。

 

答えが、ひとしきり出払った後、講師の先生から、回答が寄せられました。先生曰く

想像力と直観力は、『移動した距離』に比例する…と、述べられました。

 

一同、最初はキョトンとした表情で、腑に落ちない感じです。

 

しかし、これはとても深い思慮を含んでおり、やはり、自分の目で耳で、現地まで行って学びと気づきの心を養わないと、著者として、読者が興味を持つものは書けません。

 

グーグルマップで見るだけではわからない、色彩やニオイがあるのです。

 

そして、そしてです。この事を、科学的に証明した報告があるのです。

https://nazology.net/archives/60575

マイアミ大学のアーロン・ヘラー氏らによる研究で、5月18日に学術雑誌「nature neuroscience」に掲載された論文によると、生物の脳には、以下のような特性があるとの事です。

人間の脳は「多様性や新規性のある移動」を検知すると、脳内の報酬系を刺激して、喜びや幸福感を生み出すという事です。

 

上図に示すように、左右の被検者の移動パターンと、幸福度の相関を調べたところ、多くの距離を散策したグループの方が、深い喜びを得ていました。

ヒトがまだ類人猿だった頃、粗末な道具や武器を頼りに、種としてのテリトリーを増やしていった裏には、「あの地形の先には…何があるんだろう?」という、人間らしい想像力や直観力が、心の中を支配していたことが伺えます。

 

さらに、研究チームは、脳の中ものぞいていきます。すると、

 

脳の領域のうち、記憶を司る「海馬」と、快楽を司る「線条体」という部分が興奮していることが解ります。両者は、比較的近いので、その快楽の経験は、深く記憶の中に刻み込まれることになります。

 

現在、「ステイホーム」の生活を強いられています。ネットを使ったテレワークで、実際にその場に足を運ばなくても、殆どの仕事が完結してしまいます。

 

実際に営業先まで出向き、対面で人と会い、リアルに名刺交換できなくても、全く問題のない社会が構築されようとしています。でも、本当にそれでよいのでしょうか?その出張先まで到着するまでにも、色々なものに触れたり、人と会ったりする経験があるはずです。

 

その中にこそ、人として成長できる「想像力」や「直観力」が隠れているのではないか?と、私はにらんでいます。

 

実際、数年前から始めた「神社」巡りを始めたことで、私の身の回りには、不思議な偶然や新しい仕事への着眼点など、多くの気づきの変化が起こっています。

神様からの思し召し…としか思えないような、奇跡も経験しています。

どちらかと言うと、引きこもり生活が好きな私の本質からすると、移動幸福回路を刺激する生き方は、還暦を過ぎた現在、本当に大きな変化なのです。

 

これからも、幸福移動回路を全開にして、新しい事へチャレンジしていこうと考えています。