3月某日、浜松の障碍者施設に出向いて、以前ご案内した、JRA畜産振興事業の助成を受けて、トウヨウミツバチ協会が主催する、障碍者の養蜂について調査事業を行っている一環として、養蜂作業をする事によるストレスチェックの実験的研究に参加してみました。
テスト内容は、唾液アミラーゼモニターを使います。
そのお陰で、蜂の生態と養蜂についても、少し勉強してみました。
① 実は、女王バチは…女王ではないらしい
養蜂をしている箱を空けると、ハニカム状の居住スペースに、蜂君たちが巣を作っています。ふたを開け、養蜂家は、女王バチが正しく生まれているか?目視で確認をします。
慣れた方ですと、ものの数分で見つけ出す事ができます。
お尻の部分がやや発達し、働きバチよりも、一回り大きい個体です。
面白かったのは、女王バチは、一つの巣箱の中で、王台と言われる、さなぎ状の繭を作り、時に、数匹生まれるそうです。その他に、働きバチや種付けをする雄バチも別に生まれてきます。
その中で、女王バチとして認めて行く決定権は、実は雄バチや働きバチが握っているそうです。巣箱の中の総意として、こっちを女王バチにしようと決めたら、落選した女王バチ候補の方は、いじめられたり、食い殺されたりするそうです。
また、女王バチになってからも、沢山子供を産めなかったり、未熟児の様な卵しか産めなかったりしても、お払い箱になってしまい、やはり、お役御免の運命をたどるようです。
実は、女王バチとは名ばかりで、本当は、雇われマダムのような境遇らしいです。
② 巣箱によって、性格は全く異なる
養蜂に慣れた方が巣箱を空けると、ウジャウジャとミツバチの群生が出てきます。これは、素人の私にもハッキリと分かりましたが、ある巣箱を開けた所、生まれたばかりの、頼りない女王バチの場合は、たむろしている働きバチの周りを、不安そうにウロチョロしていました。
まるで、「お前は、まだ俺たちが、女王と認めた訳じゃない。」
「もう少し、コミュニケーション取って、品定めをしようじゃないか」
という声が、働きバチから聞こえてくる位、若い女王バチの新人候補は、落ち着きがありませんでした。
正式な女王が決まっていない巣箱は、不安を抱えています。巣箱を空けると、何事か?と、蜂たちが飛び出してきます。蜂たちも、統率が取れていないので、イライラして気が立っています。私に向かって、防護服に突進してくる蜂や、明らかに羽ばたく時の羽音が変わって、ブーンと言う様な威嚇する音に変化しました。
この巣箱に宿った、新米の女王バチが、皆に正式に受け入られるかどうか?もう少し様子を見る為に、巣箱は閉じられました。
ところが、もう一方の巣箱を開けた時は、全く違っていました。
蜂君たちも、一塊となって、群体を作っています。巣の真ん中を見ると、女王バチが鎮座しており、既に少しだけハチミツも出来上がっています
巣として安定しているので、羽音も本当に穏やかですし、攻撃的な蜂もいません。
この巣箱は、安定政権を営み始めています。無駄な争いを避けるために、次に生まれる予定の女王バチも必要なさそうなので、早々に王台を摘み取っていきます。
女王バチの王台をちぎって摘み取ると、白いさなぎと白い蜜が出てきます。その白い部分が、「ロイヤルゼリー」と言われる成分です。
「採れたてのロイヤルゼリーを食べて見ます?」と言う問い掛けに、
好き嫌いが全くない私は、即座に応じて、「それでは、少々頂いてみましょう」と返します。
食べた味は、やや酸味があって、私の味覚では、塩味の無い「出汁あじ」又は、「豆乳」のような感じでした。高たんぱく食品なので、大豆のような味わいがあるのです。
妙に納得しました。
こうした作業を、障碍者の方と1時間以上、一緒に作業をします。
このプロジェクトが始まったころは、障碍者の方も、蜂に対して恐がっていたそうですが、現在は、役割分担もしっかりしていて、非常に楽しい雰囲気で作業を手伝っています。
もし、この作業がイヤイヤやらされていると、本人にとっても、「労働」になってしまいます。
でも、障碍者の方が、「私が行って、世話をしないと、あの蜂君たちは生きていけない」…と言う心が芽生えると、仕事のやる気度が出てきて、それが、本人にとって、癒し効果につながっているのであれば、何とかその変化を「見える化」をする事によって、事業として成立させようというプロジェクトなのです。
③ 蜂たちも病気に感染するらしい
実は、蜂たちも、ウィルス感染、ダニ感染するらしいです。特に、呼吸器周辺に炎症を引き起こすので、いったん感染してしまった巣箱は、ハチミツの収穫が減り、品質も落ちてしまうそうです。何となく、今のコロナ禍の人間社会と同じ問題を抱えていて、親近感が持てました。
④ 女王バチも夜逃げをするらしい
一つの巣箱に、女王バチは1匹が理想です。前述したように、女王バチ争いに敗れた蜂は、リストラされる運命ですが、稀に、巣の中で、2大政党にまで勢力図が膨れ上がり、相対してしまう時があるそうです。そんな時は、どちらか片方の女王蜂が、子分を連れて、その巣から旅立ち、夜逃げをするそうです。
無駄な争いは避けて、外に活路を見出すのですね。これを、分蜂と言うらしいです。
蜂さんにとっては、非常に良い解決法ですが、養蜂事業としては、少し損失につながります。
そんな時は、新しい巣箱を用意して、「新居」を用意してあげると、そちらで新しいコロニーを作ってくれるそうです。
⑤ 熱殺は、西洋ミツバチもできるらしい
良く、テレビの自然の営みを紹介する番組で、蜂の生態を紹介する時に、襲撃してきたスズメバチを撃退する時に、身体の小さい日本ミツバチは、団子のようにスズメバチを取り囲み、胸に熱を集めて、「熱殺」して退治するそうです。
従来の理論では、この必殺技は、日本ミツバチしかできない…という学説が、一般的でした。
所が、近年になって、どうやら西洋ミツバチも、同様の熱殺が出来るらしいと言う事が解ってきました。まだ、正式な論文がでて、学説として確立された訳では無いですが、もしかしたら、蜂同志の間でも、横のつながりで、情報の伝達と学習機能も備わっているのかもしれません。
⑥ 実際にハチミツを集める働きバチは、中年以降のオッサンらしい
蜂さんたちは、女王バチを中心として、一つの社会を形成しています。そして、生まれた個体の年齢に応じて、分業制の役割分担も確立されています。
●生まれたばかりの子供の働きバチは、巣の周りの掃除や、これから生まれてくる赤ちゃんミツバチの世話係をするそうです。
●徐々に成長するに従って、巣箱から出て、外の世界を徘徊するようになり、自分の巣箱の位置を確認します。
●そして、大人になって、初めて遠い所まで飛び回って、ハチミツを集めるようになります。おおよそ、2km圏内を飛行するらしいです。生涯でティースプーンの半分位のハチミツを集める事が出来ます。
プレ実験として、幾つかのデータも取れました。
そこに、どんな意味合いがあるのか?これから、考察を加えて見たいと思っています。