中国と日本の、漢方事情

中国の観光客が、日本のドラッグストアで、目薬や化粧品、風邪薬、胃腸薬などを、大量に購入する「爆買い」が、近年、社会現象化しています。

 

ところが、漢方薬の講習会で営業マンから聞いた話では、中国人観光客は、日本で売っている漢方薬だけは、殆ど買わない傾向に有るようです。

 

それが何故か?と言う部分を考察してみよう。

 

一昔前は、私も先入観で、「中国人は、品質が良い日本の漢方薬を好んで買いあさる」と、思っていました。

 

10~20年前は、中国産の生薬のうち、特に品質の良い物を日本に輸出し、比較的劣るものを中国国内で消費する傾向に有りました。しかしながら、経済発展を遂げた現在の中国では、どうも、その現象が逆転しているようなのです。現在の中国では、高くても売れる市場が成熟した事で、漢方薬の値段も、徐々に高騰しているらしいです。

 

加えて、日本においては、保険調剤を中心とした、エキス顆粒漢方製剤は、安価で手に入りますが、薬局・薬店で手に入る、一般薬としての漢方薬は、保険の3割負担で手に入る物に比べて、2~3倍以上の値段が付きます。これに対しティーバッグに生薬が入っている、煎じ漢方薬は、本物志向が高く、エキス顆粒よりは、さらにコストも高い傾向に有ります。煎じ漢方薬は、漢方専門薬局で1か月分で1~2万円します。

 

しかしながら、なんと中国では、生薬から煎じて煮出す、煎じ漢方薬の方が安く消費され、むしろ、精製されたエキス顆粒漢方薬の方が高額であると言う、日本と逆転現象が生じているのです。つまり、価格差で言うと、日本で買う一般薬としてのエキス顆粒漢方と、中国で買うものとでは、それ程コストに違いがない状態になっている訳ですね。これでは旅行者にとっては、お土産になりにくい背景がある訳です。

 

さらに加えて、日本の漢方薬の原料である生薬の80%は、中国産で占めているのが現状です。(日本漢方生薬製剤協会の調べ)その中で、例えば多くの漢方薬に含まれている「甘草」と言う生薬では、ほぼ100%中国産です。結局日本で買った漢方薬は、中国製なのね…と言う概念が、SNSが浸透した昨今、中国国内でも周知される事となった訳です。

 

これは、イメージとしては、せっかくハワイに旅行に来て、可愛らしい人形をお土産で買おうと思った時に、良く見たら、メイドインジャパンと書いてある商品は、あまり買いたく無くなる感じに近いです。

ちなみに、「漢方薬」と言うと、日本においては中国伝統の薬の様な感じを受けますが、これは全くの誤りで、中国の教育機関では、漢方薬と言えば、日本に伝来して、日本で独自に発展した日本の生薬製剤全般を指す言葉に相当します。中国の生薬製剤は、「中薬」と表現され、区別されています。

 

こうした事から、中国人観光客にとって、日本製の漢方薬が売れていないのです。