葛根湯って、風邪薬なの?

日本においては、良くコマーシャルでも流れているように、漢方薬と言えば、「葛根湯」(かんこんとう)と言うイメージが定着しています。ただ、弁証論治の観点から考察すると、この解釈は半分正しくて、半分間違っているといえます。弁証論治とは、患者さんの体質を見定め、それを補う目的で生薬構成を考える「処方学」の事です。この中で、外寒表証と言う体質の時に、葛根湯が適しており、たまたま、その状態が、風邪の引き始めに相当するので、風邪には葛根湯と言う考え方が定着してしまったのです。

 

この事から、風邪が進行して、食欲がない、下痢をしている、ひどい頭痛がある時などには、葛根湯はあまり効き目がありません。

元々は、身体を温め、筋肉の血流を良くして、拘縮をほぐす効果がある漢方なので、歯科領域では、顎の関節が開けづらくなった、「顎関節症」にも良く効きます。或いは、冬場、寒さが体にこたえて、関節の節々がこわばっている時などにも効果的です。その他、身体が冷えている「肩こり」にも使います。

 

漢方の古典の傷寒論、金匱要略には、以下のような記述があります。

 

「太陽病、項背強几几、無汗悪風、葛根湯主之」(太陽中)

 

●葛根湯…葛根(かっこん)、麻黄(まおう)桂枝(けいし)生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)、芍薬(しゃくやく)、大棗(たいそう)で、構成されています。

 

この教えを意訳すると、四足動物が四つ足で地面に立っている時に太陽のあたる所の病(ヒトの場合は背中の面)で、うなじから背中にかけて、風邪のひき始めのような状態で、首筋や肩がゾワゾワして凝った感じがして、汗が出なくて、少しの風が当たっただけで、皮毛が気持が悪く、皮膚がザワザワして、「アレッ、風邪ひいたかな?」と言う時に、葛根湯が効きますよと記述されています。

 

風邪の初期は、身体を温めて汗を出して、熱が下げる事が一番です。その為に葛根湯には「麻黄」が配合されています。この生薬を、既に汗をかいている人が服用すると、さらに発汗をしてしまい、かえって逆効果です。主成分は、「エフェドリン」という成分で構成されています。このエフェドリンは、欧米では、「エフェドラ」という商品名で、やせ薬としても販売されています。ある青年が、ジョギングの前にエフェドラを摂取し、その後、過度の運動をした影響で、心臓発作を起こして命を失った事も報告されており、心臓をドキドキさせ発汗を促し、身体を鼓舞させます。適切に用いれば、全く安全な薬ですが、服用には充分注意が必要です。