恵方巻(節分)と漢方薬。

最近、コンビニなどの店頭でも、節分の時期になると、恵方巻の宣伝を目にするようになりました。季節の風物詩になろうとしています。 何も話をせず、一年の願い事をしながら、恵方の方を向いて、一気に太巻きを食べると、無病息災で縁起が良いとされます。

 

実は、この「恵方」は、毎年方角が変わる事をご存知でしょうか?去年は、北北西の方角でしたが、今年は南南東になるので注意が必要です。現在は、スマホなどに方位を示すGPSの機能が備わっているので、方角を調べるのも容易になりました。

以前にもご案内しましたが、東洋医学の東洋思想には「陰陽五行説」と言う概念があり、神羅万象、自然界、ヒト、宇宙の営みには5つのエレメントから成り立っていると考えています。 

 

『木・火・土・金・水』ですね。「木」は「火」で燃えて、「土」に帰り、その土中からは鉱物である「金」が生み出され、やがて、「水」の豊富な水脈から砂金となって地上に姿を現し、それを金属に精製する事で、刃物が生まれ、「木」を刈り取るという、一連の円環となったループをこの世界では繰り返すと解釈しています。 

この5つのエレメントには、

五色として『青・赤・黄・白・黒』 

五方として『東・南・中央・西・東』 

五季節として『春・夏・土用・秋・冬』 

五味として『すっぱい…酸、にがみ…苦、あまい…甘、ホットなからさ…辛、塩辛い…鹹』

など日常生活のさまざまな事象が配当されます。 恵方巻も、ちゃんと陰陽五行にマッチして作られています。

 

それでは、実際の恵方巻きの中には、どの様な具が入っているのでしょうか?断面をよく見て下さい。

 

昔からある、一般的な具剤としては、かんぴょう、キュウリ、シイタケ煮、ウナギ(またはアナゴ)桜でんぶ、卵焼きなどで構成されています。 

これを陰陽五行説と食養生の観点から考察してみましょう。 

 

 

 

 

 

●かんぴょう

夕顔はウリ科の一年草で、夏の夕方に白い花をつけ、翌朝にはしぼんでしまうことに由来する。一晩だけのはかない花の姿とは対照的に、その後の蔓は5m以上達し、開花後3週間で収穫サイズになります。その果実は、5kg以上にもなります。果肉は紐状に削り取って乾燥する事で、私達が良く知るカンピョウ(干瓢)になります。

 

 

 

実は、かんぴょうは江戸時代には、高級な食べ物として珍重されていました。その微妙な風味と歯ごたえが、日本人の味覚に合っていたのでしょう。また、含有成分の中に、カルシウム、リン、鉄分なども豊富に含まれることから、妊産婦の安胎薬として、滋養強壮に応用されました。加えて、利尿・解毒作用もある事から、特に水滞体質で太りすぎの女性に適していると考えられています。

 

また、かんぴょうは色々な食品の中でも、特に食物繊維が豊富な事で知られ、乾燥100g中に30g程度含有しています。食物繊維にも水溶性と不溶性がありますが、両者がほぼ均等に含まれているのでバランスもよい食材です。

特に、食物繊維腸内有用菌である、「ビフィズス菌」を増やし、腸内環境を改善し、整腸作用を発揮する事で、血中コレステロールの上昇を抑制し、発ガン物質である生体毒性異物の分解と排出も促進する効果が認められている。また、かんぴょうの食物繊維は、水分に触れると膨潤性が非常に高いので、満腹中枢を刺激してダイエット食品としても有効です。

 

 

●きゅうり

きゅうりには、カリウムが多く含まれ、かんぴょうと同様に、利尿作用があるので、むくみ、倦怠感の解消によく効くといわれます。古来より、漢方生薬としても用いられ、きゅうりの皮30gとつるの部分を煎じて服用する健康法も存在していました。

 

真夏の暑気あたりの予防にも効果的です。

冷やし中華にキュウリが入っている事には、ちゃんとした理由があるのですね。

特に、漬物のぬか漬けにすると、ぬか床からビタミンB1浸透して、きゅうりのビタミンCと共に、滋養強壮や疲労回復に効果的です。

 

さらに、きゅうりに含まれるカリウムには、体内の不要な塩分を排出し、血圧を正常に保つ作用があります。高血圧や腎臓病の方が常食すれば、症状が安定してきます。

また、苦味成分には、ククルビタシンという成分が含まれており、近年の研究で、抗腫瘍性の作用があることが知られています。

 

 

●しいたけ煮

しいたけには「エリタデニン」という成分が含まれています。これには血中のコレステロール量を低下させる作用があり、生活習慣病の動脈硬化の予防する事が期待されます。そして、エリタデニンは、マッシュルームとしいたけにだけ含有していますが、含有量は椎茸の方が多いとされています。

 

また、太陽光線により合成され、骨代謝で重要なビタミンDの前駆物質である、エルゴステロールという成分が、椎茸には豊富に含まれています。

加えて、椎茸にはレンチナンとβ-Dグルカンと言う多糖類が含まれています。レンチナンは、がん細胞の増殖を抑制する効果があり、β-Dグルカンは免疫力を高めます。

 

 

●うなぎ(またはアナゴ)

両者の比較も含めて考察してみましょう。穴子の栄養価で豊富に含まれているのは、ビタミンAとタンパク質です。次いで、ビタミンB2やカルシウムも含みます。

穴子とうなぎの栄養を比較すると、うなぎには脂質が多く、穴子の約2倍程度です。その他、タンパク質やミネラル類は、大きな差がありません。

また、カロリーは穴子の方が低く、うなぎが1.5倍ほど高くなります。つまり穴子は、脂質の量が少なく高タンパクな食材と言えます。まだ、消化活動が未発達な子供時代は、うなぎよりは穴子の方が無難と言えます。

 

 

その他、穴子には、うなぎと同等の豊富なビタミンAが含まれています。ビタミンAは、目や皮膚の健康を維持・増進する栄養素です。抗酸化作用も併せ持つため、認知症予防、老化やガン予防にも効能が見込めます。

特に、ビタミンAは脂溶性なので、油を使った調理との相性が良く、吸収効率を増加させます。うなぎ天ぷらはあまり見ませんが、穴子天ぷらは、理にかなった調理法と思います。

さらに、穴子にはビタミンB2も含まれています。ビタミンB2の効能は、3大栄養素を効率良くエネルギー変換する作用に優れ、特に脂質の代謝を促進する働きがあります。この事から、血管内の余剰な脂質を身体の外へ排出し、動脈硬化を予防します。

 

 

●桜でんぶ

桜でんぶとは、ちらし寿司などにチョコンと乗っかっている、タイやタラなどの魚のフレークにして、甘い味付けと赤い色素を染み込ませたもので、私の子供の頃は、ご飯のふりかけとしても愛用していました。

タイやタラに含まれるナイアシンは、ビタミンB群の一種で、たんぱく質と脂質の代謝、アルコールの代謝に関係し、ビタミンEとの相乗作用で、血流が良くなる効果もあると言われています。一般的にトリプトファン60mgからナイアシンが1mg作られるので、アミノ酸のトリプトファンを摂取する事は、ナイアシンへの変換を促します。

 

実は、このナイアシンは、口内炎、舌炎、皮膚炎などの治療にも応用されるビタミンなので、口臭抑制効果もある食材です。

 

 

 

●卵焼き

卵は、食物繊維・ビタミンC以外の栄養素を全て含んでいる為、栄養学的には「完全栄養食品」とも考えられています。特に、アミノ酸、ビタミン、ミネラルが、バランスよく含まれています。そして、なぜ完全栄養食品なのか?ですが、良質のたんぱく源として、ヒトの体内で合成できない8つの必須アミノ酸を、均一に含んでいることに由来します。また、鉄分・カルシウムなどのミネラル、ビタミンA・B2・B12・Dなどのビタミン類も豊富で、特に、卵黄に多くの栄養が含まれています。

卵を加熱して、卵焼きにすると、ビタミンB群がやや減少するものの、基本的には栄養価の大きな変化は見られません。

 

 

【まとめ】

改めて、上記の具材を五行説にあてはめてみると・・・ 

 

・キュウリ→青 →木(肝)

・桜でんぶ→赤 →火(心)

・卵焼き→黄→土(脾) 

・ご飯→白 →金(肺)

・ウナギ、海苔・シイタケ煮など→黒→水(腎) 

 

と、陰陽五行説の五色との「深いつながり」が、恵方巻の中には全て含まれており、東洋医学的にも理にかなった食材であると言えます。

一年の始まりに、家族の健康を祈って食べる恵方巻には、上記の様な先人の長寿への工夫が盛り込まれているのですね。