2月22日は、ニャンニャンニャンで、猫の日です。

実は近年、ペットや牛・豚・鶏など畜産動物に対しても鍼灸治療が行われています。ただし、動物の鍼灸治療は、鍼灸師ではなくて、関係法規上、獣医師が担当する形になります。

 

人間でも動物でも、加齢変化や過重負担の運動、不自然な姿勢などで、体の何処かで「痛み」が発生します。そして、生き物は、痛みをかばう為に代償動作の姿勢をとります。痛みを言葉で表現する事の出来ない動物は、人間よりも特にその傾向が強く、しかも、自然界では他の捕食動物に「弱み」を見せる事は、生存に関わる事なので、動物はギリギリになるまで、痛みを訴える事はありません。

 

このかばう為の代償動作の姿勢が長く続くと、やがて筋肉が拘縮してこわばってきます。そして、その事で血管を圧迫してしまいます。最終的にその部位の血流が悪くなって、発痛物質が蓄積する事で、さらに痛みが助長します。

 

このような「痛みの悪循環」が、ペットなどでは、後脚麻痺として現れる事になります。

 

動物における鍼灸治療の目的は、鍼治療により筋肉のこわばりが弛緩され、血流を疎通する事で、痛みの悪循環が断ち切られるので、後脚麻痺や痛みが改善すると考えられています。

よく使うツボとして、「天突穴」(てんとつけつ)があります。これは、ヒトと動物ではちょっと変わっていて、人間においては、頭のつむじのあたりで、ちょうど頭頂部に当たります。犬や猫もそうなのかと言うと、実は違っています。このツボの元々の由来は、立った時の一番頂上と言う事なので、四足動物の場合、背中の一番盛り上がった所になります。(右図参照)

 

歯科治療をする中で、親知らずが炎症によって、顔の形が左右非対称になるほど腫れあがり、

ズキズキした痛みを訴えてくる患者さんがいます。

 

なぜ、生き物は、腫れて、痛みも伴うようになるのでしょうか?

 

その意義と理論的な背景について、生き物に起きる炎症と痛みの「本質」について、私なりの考察を加えてみましょう。

まず、

炎症は→それ自体は病気ではありません。

炎症は→病状の悪化でもありません。

炎症は→自然治癒に至る為の合理的な生体反応です。

 

つまり、治癒に至る為の身体からの、有り難いシグナルサインであると考えています。

私達が学生時代に真っ先に教授から教わる、『炎症の4兆候』は、以下のものになります。

 

① 発赤…患部が赤くなる。

② 腫脹…腫れ。反応性炎症

③ 疼痛…ズキズキした拍動痛

④ 発熱…患部を含めた全身的な微熱

これに、近年では、機能障害を含める事が多いようです。

 

炎症の最初のはじまりは、組織の破壊から起きます。ちょっと専門的な話になりますが…。

細胞膜を構成するリン脂質に酵素が反応して、アラキドン酸と言う物質がリン脂質から遊離されると、シクロオキシゲナーゼやリボキシゲナーゼという酵素と反応して、前車からは、プロスタグランジンやトロンボキサンが、後者からは、ロイコトリエンが生成されます。

この一連の流れを繰り返す事で、次々と滝のように物質が合成されていく反応を総称して、アラキドン酸カスケードといいます。(これ、生理学の試験の大ヤマでした)これは、文字通り、絶え間ない「滝のように」秒速単位で、身体の中で「小宇宙」のような変化が起きます。

 

 

 

そして、合成された物質は、前述した4兆候の、疼痛やかゆみ・腫れ・発赤などの炎症反応を呈するだけでなく、血小板の凝縮や血管壁の収縮といった症状の要因にもつながっていきます。

 

最終的に、この反応は、以下の2つを誘発します。

血管拡張→組織を早く修復の為に血流を増やす

血管透過性亢進→組織から老廃物を洗い流す為に、患部に浮腫が起こる。

人体の内部は非常に巧妙に出来ていて、血管拡張も起きますが、一方で、止血の為に、血管収縮も起きている訳です。相反する作用によって、バランスよく恒常性を保つようにできています。

 

そして、ココが一番重要な部分なのですが、

 

こうした一連の働きにより、ヒトの身体は、どこがダメージを受けたか?と言うメッセージを、「痛み」と言う形に変える事で、脳は認識して行きます。仮に痛みが起きなければ、身体はどこが破壊されたか把握できず、損傷個所は、さらに悪化、拡大することになります。

最終的にこの炎症反応から、毛細血管の新生が始まり、繊維芽細胞による肉芽組織形成され、マクロファージによる異物処理がなされ、コラーゲン再生され瘢痕化による、かさぶたが形成され、治癒に至ります。

 

この事から、炎症は病気に関係しますが、一方で治癒過程の始まりである事が重要です。

 

しかしながら、一人の患者と言う視点で見たら、やはり、この痛みは、出来るだけ早く取り去りたいのが人情です。私達、医療従事者も、痛みの除去を優先して、治療計画を立案します。

まず、痛みを止めるには、前述した、血管拡張物質であるプロスタグランジンの生成を阻害すれば良い事になります。これは、私達が良く使う鎮痛剤の働きの内、薬理学的には、痛みが始まる前の「酵素反応」を抑制する事で達成されます。

 

ところが、痛みは楽になりましたが、組織修復の為の治癒過程の血管の拡張は、まだ起きていない訳ですから、この段階では、単に痛みはおさまっただけで、本当の治癒はしていません。痛みを感じないように、その閾値のレベルを変化させただけなので、まだ炎症の本質は残ったままです。

 

この、見せかけの痛みを感じないだけの身体の状態と、本当の治癒に至るまでの、時間軸のズレが、臨床的には問題になってきます。人間の場合は、本能的にこの変化を察知しているので、「まだ無理をしない方が良いかな?」と、養生が効きますが、ペットの場合は、まだ組織が壊れたままの状態で動いてしまうので、その事が、あとあと問題になってくる時があります。

組織が破壊されたまま動くので、患部は当然治りません。薬の薬効が切れたらまた痛くなる。飼い主は、また悪化したと思い、薬をペットに投与する。こうして、慢性痛が発生してしまう悪循環を繰り替えしてしまいます。

 

実際、我が家の愛犬も、後ろ足が不自由になり、全身の機能が衰えて、過去に悲しい別れを経験しました。あの時に、もう少しこうしておけば良かったと言う思いは、今も心の中にあります。これは決して、獣医師さんの取り組みを否定する意図はなく、むしろ、安易に鎮痛剤を処方してしまう、自らの治療体系も顧みた時、炎症と痛みについて、一人の臨床家として、どの様にしたら一番患者さんの利益につながるかを、再確認する為に、自戒の念を込めて再考察してみました。