合成甘味料の弊害について。

砂糖の摂取と歯科医療との相関は、100年前から指摘を受けて、虫歯の予防には、甘いものを控える…と言う通念が、一般社会に浸透しています。加えて、本来の砂糖の摂取よりも、ダイエット目的で、代替甘味料を摂取する方が、生活習慣病が予防できる…との考えから、近年、アスパラテームなどの人工甘味料を用いた食品が、広く流通するようになって来ました。

 

今回は、歯科医師の立場から、人工甘味料の健康への影響について考察してみましょう。

ただ、現在の所、推進派と否定派の両方の意見が出ています。公正を保つために、両方の考え方をご紹介してみましょう。

 

●人工甘味料は代謝応答を破壊する可能性

アスパラテームなどの人工甘味料が抱える問題には、その甘い味によるエネルギー摂取量が、食材から得られるものより、圧倒的に少ない事に起因しています。

この事は、人工甘味料が、本来の砂糖より、数百倍も強い甘い味を有していることです。この事は、簡単に表現すれば、すごく甘いのに、カロリーは大変少ないのです。

 

この事は、脳が飲食の摂取量を制御する「満腹中枢」にも影響を与えます。満腹中枢は間脳の視床下部に存在し、身体に満腹感を伝達する発信源です。飲食後、脳の中で神経伝達物質の「セロトニン」が分泌され、これが、満腹中枢に影響を及ぼして、「あぁ、もうお腹がいっぱい」と感じるようになります。

さらに、満腹中枢は、飲食後胃腸で消化・吸収され、血糖値が上昇します。次いで、膵臓からインスリンが分泌されて、血糖値を引き下げるように働きます。ここまでは、ご承知の通りです。実は、その後、身体の中では脂肪細胞が刺激を受けて、「レプチン」という生理活性物質が分泌されています。最終的に、このレプチンが脳の満腹中枢を刺激して、「もうこれ以上、食べるのをやめよう…」と、感じる訳です。

以上のように、飲食後の血糖値の上昇が、食欲のトリガーとなるので、時間をかけてゆっくり食事をすると、過剰な食欲を抑制できる訳です。

 

所が、人工甘味料は、本当の甘味ではないので、血糖値の変動が起きません。

 

確かに摂取カロリーは少ないのですが、満腹中枢を刺激しないので、食欲中枢が上手くコントロール出来ないようになる可能性が有ります。(そうでは無いと言う、諸説があります)

 

つまり、人間の身体はカロリーと甘味を、脳内で無意識に関連付けるようになっており、人工甘味料の過剰摂取と、実際のエネルギー量との「ズレ」が、本来あるべき、新陳代謝のサイクルを上手く機能しないようになる事が考えられます。

 

漢方の世界でも、飲食物によるエネルギーを「水穀の精微」と称し、それが体内に入ると、脾胃の運化作用により、正しく「気」に変換され、生命活動が営まれると考え考えられています。この一連の元気の「気」、やる気の「気」が、人工甘味料によって作り出す事が出来ないのだとすると、食べたつもりなのに…気力が出ない状態が、ずっと継続する事になります。

 

甘い味覚が、摂取カロリーと整合性が有れば、脳の満腹中枢は正常に働きます。しかし甘味に対して、それに見合うだけのカロリーが、摂取できないと、脳は満腹中枢を満足させるための信号を獲得することができません。 

この事はダイエット関連食品や清涼飲料は、むしろ、食欲を増大させ、ひいては、生活習慣病や糖尿病を悪化する事が懸念されます。

人工甘味料は、砂糖(カロリー)を摂取したいと言う思いを「はぐらかす」働きをします。実際には、砂糖を取り込まないので、身体は、さらに「欲しい」と言う命令を脳に与え、最終的に、さらなる炭水化物の欲求につながるのです。 

 

東洋医学でも以前にもご紹介した、陰陽五行説では、「甘い」は、肝・心・脾・肺・腎の五臓の内、「脾」に相当します。脾の表裏関係に位置しているのは、「胃」です。東洋医学を研鑽した先人は、甘い味が、胃の働きに影響を与える事を知っていたのですね。

 

この事から、ダイエット製品の過剰摂取は、太る可能性も存在する訳です

 

また、アスパルテームの摂取は、腹部周囲を肥満にさせるリスクが高い事が指摘されています。この事は冠動脈性心疾患や心臓発作など、循環器系の心臓血管病のリスクを上昇させる要因にもなると指摘されています。

 

様々な研究論文で、癌、心臓病、認知症の悪化などに影響を与える事が報告されています。

 

一方で、コカ・コーラのホームページでは、人工甘味料の安全性を述べています。

https://www.cocacola.co.jp/article/energy-balance_02

その中で、1日の摂取量の上限が記載されています。1日に摂取できる量を表す許容量(Acceptable Daily Intake:ADI)」を定めています。ADIは、一生、人間の健康に悪影響を及ぼさずに摂取できる1日あたりの量を意味します。

 

米国ではFDAが、アスパルテームのADIを体重1kgあたり50mgと定めています。つまり、体重が70kgの人が、1日に摂取しても安全な量は、3,500 mgとなります。甘味料としてアスパルテームを使用した清涼飲料には、通常、1杯分にあたる約330mL中に、185mgのアスパルテームが入っています。ADIを超える量のアスパルテームを摂取するには、成人が1日に清涼飲料を19杯以上摂取しなければなりません。(コカ・コーラのサイトから引用)

 

いずれにしても、自分の健康の維持は、最終的には自分自身に責任が有ります。どちらの意見を採用にするにしても、そのプラス面とマイナス面を理解しながら栄養摂取する必要があるでしょう。

 

「食」と言う漢字は、「人」が「良くなる」と書きます。

 

その事を念頭に入れながら、日々の食生活に意識を払う事が重要だと考えます。