奇恒の府とは?

普段、ブログを運営していると、私の患者さんの中にも熱心な読者が出てきます。その中のご意見として、

 

「陰陽五行説による臓腑については、だいぶ解りました。でも、人間の体の中には、表の肝・心・脾・肺・腎や、その裏の胆・小腸・胃・大腸・膀胱の他にも、ヒトとしての諸器官がありますよね?そちらは、どうなのですか?」と言う問い合わせを受けます。

 

そこで今回は、その他の臓器に関して、もう少し触れておきましょう。

 

ヒトの身体における内臓の主要器官は五臓六腑です。五臓の漢字には「蔵」の文字が有る様に、人体の生成物を「くら」に溜めておく働きを持ちます。これに対し、六腑は生成物の通過器官であり、その中継地点で集まる働きを持ちます。「府」の漢字には、書類や財宝をしまっておく倉庫の意味があります。

 

この事から、東洋医学では、「臓」と「腑」が、互いに結び合い、それぞれの役目を分業しあって、正常な生命活動を営んでいます。しかしながら、ヒトの身体には、五臓六腑以外にも色々な器官があります。

 

それは、形は腑に似ていますが、働きは臓の様な役目がある器官です。この臓でもなく腑でもないものを…東洋医学では、「奇恒の腑」(きこうのふ)と呼んでいます。

 

奇恒の腑には、「脳」、「骨」、「髄」、「脈」、「胆」、「女子包」(子宮)があります。今回は、読者の方のご要望に応じて、この奇恒の府について解説してみましょう。

 

【骨】

骨は陰陽五行説の配当表でみると、「腎」と関係が深いです。以前のブログでもご案内した通り、女性は7の倍数で、身体を成長発育させ、28歳の時に筋骨が最も盛んになります。一方、男性は8の倍数で成長し、24歳の時に筋骨が丈夫になり、32歳で筋骨が最も隆盛となります。

また、私の専門分野である歯は、骨余とも言われ、腎の気が衰え、骨が弱くなると歯もグラグラしてきます。この事から、腎気の盛衰と歯や骨は密接な関係にあります。

 

内骨格の生命体において、骨は身体の最深部にあります。骨と骨を筋肉や関節が接合する事で、骨格を形成します。骨髄は骨の中に流れ、腎の気を受けて、骨格に栄養を与えます。

 

実は、面白い事に人体の骨の数は、生後間もなくは365個存在しています。頭蓋骨などが徐々に吻合し、成人になると206個まで減少します。

 

以前ご案内した、「88」の数字の不思議と同じように、「365」もちょっと不思議な数字です。

● ご存知のように、1年も…12カ月で365日です。

● 鍼灸師の立場で考えると、実は、全身の経絡ツボの数も…12脈で365個なのです。

● まだあります。大動脈は12脈、静脈は365脈、大きな関節は12個、小関節は365個のように、不思議な符号が隠れています。

● さらに、ナント、生薬について書かれた古典の「神農本草経」の生薬の数も…365種類。

● 人の体温の平熱は、36.5度ですね。

● 数学の世界では、365 = 102 + 112 + 122 であり、365 = 132 + 142 でもあります。

 

どうして人体には、同じ数字が繰り返し出てくるのでしょう?本当に不思議です。

 

【髄】

髄は3種類からなりたっています。骨髄、脊髄、脳髄の3種類です。これらは、外郭となる骨の内部に宿っており、骨と同様に、腎の精気によって形成され。髄は腎臓の生理作用によって、常に補充されています。加齢などによって、腎の気が衰退してくると、同時に髄の生成も少なくなります。最終的には、骨を滋養することが難しくなり、西洋医学で言う所の「骨粗鬆症」となっていきます。

この骨と髄の関係性は、自然界においては、大きな木の年輪にも現れています。

右の写真のように、年輪をよく見ると、バームクーヘンのように何層にも分かれて見えます。実は、断面をよく観察すると、年輪の間に、色が変色している部分があります。これが、木にとっての「髄」に相当する部分です。そして、成長するごとに髄が古くなり、硬く固まった部分が年輪を形成していきます。

実は、ヒトの骨と髄の成り立ちは、木の仕組みは同じなのです。

 

 

 

 

【脳】

脳は最も髄が集まった大きな組織で、東洋医学では、「髄海」(ずいかい)と表現します。骨と同じように、腎の精気が脊髄や脳髄の発育成長を促します。骨格標本を見た事があると思いますが、脊髄をたどっていくと脳につながります。そして、脳の内部には髄が集まっています。

この事から、特に脳は「精明の府」とも言われます。そして、腎気が枯渇すると髄海不足がおきて、めまい、ボーッとしたり、立ち眩みが生じたりします、加えて、腎は、耳に開竅するので、突発性難聴、耳鳴り、難聴などの症状も出てきます。さらに、髄海不足になると、記憶力の低下やアルツハイマー認知症も誘発してきます。

さらに、昔の人は、鼻水の事を髄海から出ている粘張物と解釈していました。現代人では少なくなりましたが、昭和初期の頃、鼻が詰まり黄色ッ鼻をたらし、口呼吸を繰り返しているような子供が、クラスの優等生になれなかったのも、こんな事が関係しているのかもしれませんね。

 

【女子包】

女子包は、女性の子宮に相当します。別に、胞宮とも言われます。女子包は、身体の真ん中を走行する経絡の「任脈」と、その任脈のすぐ隣を流れる一対の「衝脈」の働きを受けて、女性の生理活動が営まれ、月経により出産の機能を宿します。この妊娠と出産と不妊症に関しては、私達夫婦が身をもって経験してきた部分なので、今月のブログに別枠で詳述したいと思います。

 

【脈】

脈は心が主りますが血管そのものの存在は、五臓六腑以外の器官になります。この脈とは血脈のことで、血の府です。経脈とも言われます。脈は血の通る通路のようなもので、血液の正常な運行に直接的な関係を表します。この生理機能は心臓に属します。

 

【胆】

実は、胆に関しては、六腑にも属しながら、奇恒の腑とも言われる不思議な腑です。常に不安感が付きまとう、恐怖感や憂鬱感、落ち込み、イライラ、クヨクヨ、ため息をつくなどの精神状態と密接に関係しています。

身体の元気がないと、何故か、気持ちもポジティブになれない時ってありますね。この時、「胆」に負担がかかっているのです。西洋医学では否定されますが、胆汁の苦水が喉にまであふれてきて、東洋医学では「口苦」と言う現象が起きてきます。口臭治療をしている患者さんでも、普段から、口が苦いと訴える方が多くいます。

 

古来より、あの人、「胆が座っているね」とか「胆っ玉母さん」というように、度胸をある人のには「胆」が使われます。東洋医学では、胆の働きは、胆のう・胆汁の分泌の他に

 

『決断をつかさどる』腑として、人間の精神状態と深い関係があると考えられています。

 

特に、飲食の不摂生による過食、化学調味料、ジャンクフード、インスタント食品などで、胃腸が損耗すると、肝胆系に影響が波及して、その結果、精神が不安定になるケースがあるので、注意が必要です。