熱中症と東洋医学

今年の夏は、例年になく酷暑で、観測史上、最高気温を更新する日も多く、40℃を超える日も珍しくありません。特に、外出する方は、「熱中症」に気を付けなければなりません。

 

今回は、東洋医学的に熱中症を考察し、養生法についても考えてみましょう。

 

熱中症はなぜ起きるのか?

熱中症とは、外気温に加えて、湿度が高い場所に長時間いる事で、体内の水分量が極端に低下し、水分と塩分などのミネラルバランスが悪くなり、体温調節の恒常性がうまく保てなくなった時に、身体に蓄積した体熱を発散する事が難しくなって起きる体の不調です。

 

主な症状としては、眩暈、筋肉の引きつりや痙攣、悪心、嘔吐感、頭痛など伴い、重症になると、意識混濁、昏迷、昏睡や意識消失などが現れ、死に至る場合もあります。

 

熱中症は水分量の低下が、発症に引き金になるので、外出中や屋外での活動だけではなく、屋内や室内、車内でも発症する可能性があるので注意が必要です。

 

特に、水分代謝機能が衰えて、もともと体液量が少ない高齢者や、体温調節機能が未発達な子供は、特に熱中症にかかりやすいと言えます。

それに加えて、下痢や発熱など脱水症状のある方、過度の運動やサウナで一時的に大量の汗をかいた後、睡眠不足の時にも熱中症になるリスクを高めます。

 

こうした「熱中症」ですが、東洋医学から見た場合、何か対処法は考えられないでしょうか?

以前のブログでも解説した、陰陽五行説から考察してみましょう。

「陰陽五行説」は、神羅万象、全ての営みは「木」・「火」・「土」・「金」・「水」の5つのエレメントで構成されており、お互いに影響し合っているという考え方です。

 

過去にも解説したように、この属性は臓腑にも対応しており、木は肝、火は心、土は脾、金は肺、水は腎に対応します。

季節の項目では、「火」が夏の季節に相当する為、この暑熱が体内に蓄積しやすく、汗が必要以上に出てしまい、身体に必須のミネラル成分や、気のエネルギー、水分が奪われるのは、容易に想像できると思います。

東洋医学では、身体や心の不調を「邪」(じゃ)とよび、熱中症は「暑邪」(しょじゃ)を身体が受け止めてしまった時に引き起こすと解釈しています。

 

実は、暑邪による身熱が原因の熱中症ですが、大きく分けて、2つのタイプが存在します。

1.熱を身体が受け止めきれず、急激な体温上昇により発症するタイプと、

2.急激な発汗により、水分、エネルギー物質、ミネラルの消失により発症するタイプです。

 

【熱中症予防の食養生】

熱中症は、普段から食事を注意するだけで、ある程度予防が可能です。水分補給と充分な休息をすると大事に至りません。おススメの食養生をご紹介しておきましょう

・ 身体をクールダウンする食材:きゅうり、なす、スイカ

・ 水分を補給する食材:トマト、梨、スイカ、はちみつ

・ 苦味の食材は、熱をさばき、ストレスを緩和し気持ちを落ち着かせます:緑茶、にがうり、セロリ、パセリ

・ 酸味のある食材は、身体の穴をキュッと引き締める、収斂作用があり、汗の漏出を防ぎます:黒酢、レモン、梅干、すもも

・ でんぷん質は、不足したエネルギーを即座に補います:かぼちゃ、じゃがいも、もち米

 

【熱中症対策の漢方薬】

実は、漢方薬の中にも、不足した気を補い、身体をクールダウンする処方があります。本来は、身体に溜まっている実熱を取り去ったり、夏負け予防を目的として、昔から用いられていたのですが、近年、熱中症にも効果が見込める事が解ってきました。ここでは、代表的な漢方薬を紹介しておきます。

●『白虎加人参湯』(びゃっこかにんじんとう)

生薬名にもある「白虎」は、身近にある「石膏」の事です。歯科医院で用いる歯科用石膏、美術品の石膏像、医療用の固定用ギブス、黒板用チョーク、建築用建材など、日常の身近な鉱物として、色々な分野で活用されています。

また、あまり知られてはいませんが、実は、石膏は豆腐を製造する過程の凝固剤や、ビールの添加物など、食品にも用いられています。

この石膏は、漢方薬のかでも珍しい、「鉱物」由来の生薬なのです。

身熱による、のぼせ・火照り、その熱により損耗した渇きを緩和し、逆に水分を補います。

 

近年、医療機関における熱中症対策のファーストチョイスとして用いられる漢方薬です。幾つかの論文も発表されているので、効能は確かなようです。石膏の主成分は、含水硫酸カルシウムです。光沢のある白色の繊維状の結晶塊で、砕くと針状もしくは繊維状の粉末となります。

 

●『黄連解毒湯』(おうれんげどくとう)

こちらにも、「黄芩」「黄柏」「黄連」など、熱を清める生薬が沢山配合されています。特に、暑気あたりにより身体に熱がこもった状態を冷やしてくれます。ただ、生薬構成をよく見ると、全て「黄」の色味が共通です。陰陽五行説で「黄色」は、何の臓腑に相当していたでしょうか?「黄」は「脾」でしたね。その裏が「胃」です。本剤は、本来食後、胃の中がムカムカして熱い感じがするなどの胃熱を抑える効能がありますが、身体全体が抱える暑さもクールダウンしてくれます。

 

(画像は、近隣の漢方調剤薬局さんの取材で、撮影させて頂きました)

 

●『清暑益気湯』(せいしょえっきとう)

本来は、夏負けの処方として重用されますが、私は、その効能から、夏場だけではなく、胃腸の働きが衰えて元気が落ち込んでいる時に、一年を通じて広く用いています。処方構成を見ると、熱をクールダウンして、同時に津液(水分)を補います。夏場、屋外で作業をして、発汗による水分の消失と、気のエネルギーの損耗が引き起こす熱中症に効果が見込めます。

 

●『生脈散』(しょうみゃくさん)

実は、この処方は、外回りの営業マンが強く導入を勧めるので、去年から導入しました。清暑益気湯と同じような効能がありますが、「気付け薬」としての部分がパワーアップされているので、暑気あたりで、気持ちがすぐれない時などにも効果が見込めます。

熱い夏を乗り切るには、漢方薬による養生もおススメです。