指パッチンと…「舌パッチン」の不思議な関係

突然ですが、「指パッチン」には、2種類あると思うのですが?如何でしょうか?

1つ目は、

中指を親指の先端に触れて、ちょうど、輪っかの形を作り、力を込めてデコピンする時に、中指に溜まった力を開放する時に行う、「指パッチン」です。指の筋肉と関節を使って、ばね的特性を使って行う、「エネルギー開放型」の指パッチンです。

 

2つ目は、

良いアイデアがひらめいた時などに行う、中指と親指をはじいて、音を出す「指パッチン」です。以前、コメディアンのポール牧さんが、パチパチ鳴らして流行させましたね。アレです。こちらは、弾かれた中指の先端が、親指付け根の掌を叩く事で出る「音響型」の指パッチンです。

 

そして、お口の中の健康を維持・増進する為に私が臨床に取り入れているのが、「舌パッチン」です。これは、「エネルギー開放型」と「音響型」を同時に出来る所が特徴です。

 

どんなメリットがあるのでしょうか?

 

その前に、お口の中に存在する「舌」ですが、普段は、どこに収まっているのが「ベストポジション」だか、イメージできますでしょうか?

 

実は、

 

舌先の先端が、上の顎の前歯の付け根あたりから、口蓋皺壁に接しているのが正しい位置関係です。(口蓋皺壁とは、上顎の正中から横に広がる、ザラザラした皺です。犬の上顎を見た時に確認できます)

これを、古式武道や太極拳の世界では、「舌抵上顎」(ぜっていじょうがく)と言って、昔から重用されてきました。このベストポジションをキープする事で、お口の中だけではなく、全身の姿勢が安定した位置に収まり、瞬発力が発揮されるばかりでなく、身体の体幹が整い、ケガの防止にも一役かいます。

 

その理由と効能は、3つ考えられます。

1. 体の正面から見た時の「正中線」を繋げること。

鍼灸師の立場で考えると、背中の真ん中を通る経絡は「督脈」(とくみゃく)と言います。身体の前面の正中線に流れる経絡は「任脈」(にんみゃく)と言います。実は、両者の流注は、上顎部で途切れていて、連絡していないのです。そこで、舌先を上顎に密着させる事で、督脈と任脈が繋がって交通すると、はじめて、身体に一本の芯が通る様になって、体幹が安定するのです。大きな荷物を持ち上げる時や、瞬間的に力を発揮する時は、無意識に舌抵上顎になっているはずです。

2. 舌尖を上顎に付ける事で、唾液の出口の唾液腺(顎下腺)が解放されて、自然とお口の中が陰圧になるので、唾液の分泌が旺盛に出るようになります。

 

3. 舌抵上顎が上手く出来るようになると、自然と「鼻呼吸」になります。

舌抵上顎が上手く出来ているかどうか?簡単にチェックする方法があります。それは、まず初めに、こんな感じかな?と、舌の表面を上顎に触れてみて下さい。

その態勢を維持したまま、鼻をつまんで息を吐き出してみて下さい。もし、口から空気が漏れる様であれば、まだ、ベストポジションではありません。もう一度、広範囲に舌が密着するように触れてみましょう。しっかり舌の表面が上顎に覆われていれば、口から息が吐き出せないはずです。これが、理想的な舌抵上顎なのです。つまり、舌の表面が呼吸動作を封鎖するので、上手く出来ていれば、「口呼吸」は出来ない訳です。この事によって、否応なしに、鼻呼吸になってきます。

 

実は、舌抵上顎が、特に意識しないでも、とても上手く出来ている年齢があります。それは、生まれたばかりの新生児です。意外でしたか? 

 

 

お母さんの乳首に吸い付いて、母乳を飲んでいる時をイメージしてみて下さい。赤ちゃんは、乳首を上顎と舌の表面で挟んで、舌を前後に動かしながら、乳首の先端をこすります。すると、乳首が刺激を受けて、赤ちゃんのお口の中に母乳が満たされます。この時に、お口の中が、完全に密封状態になって無いと、上手く母乳を飲み込めません。

 

そして、この時に、舌抵上顎は、もう一つ重要な役目を担っています。母乳を飲むのと同時に、赤ちゃんは呼吸をしなければなりません。舌抵上顎で、お口を封鎖したこの時に、

 

赤ちゃんは、「鼻呼吸」を覚えるのです。

 

生物が健常に生きていく上で、鼻呼吸のメリットは計り知れません。特に、3つの機能を有しています。

①加湿機能

鼻からは、鼻水が1日に1リットル以上分泌しています。この鼻水は、鼻の粘膜に潤いを与え、鼻から吸った吸気に、湿り気を与えます。インフルエンザや風邪菌は、乾燥が大好きです。鼻呼吸をして、適度な湿気を与えられて呼吸する事によって、感染症のリスクは、下げる事が出来ます。

 

②エアフィルター機能

鼻から吸った汚れた空気は、鼻毛・鼻粘膜・線毛によってキャッチされ、細菌、ウィルス、化学物質などが身体の中に入る事を防いでくれます。自動車の内燃機関にもエアフィルターが存在し、エンジンの中には、綺麗な空気が取り込まれ、燃焼に繰り返します。不純物が入れば、すぐに機械系統は故障してしまいます。空気を清浄にする機能が鼻にも備わる事で、やはり、感染症を防いでくれます。

 

③温度調節エアコンディショナー機能

鼻呼吸する事で、吸い込んだ息は温められます。もし、極寒の北の大地で、息も凍る場所で、口から息を吸ったらどうなるでしょう?肺の中が、いきなり冷気にさらされて、低温火傷を負ってしまいひとたまりもありません。やはり、風邪やインフルエンザにもなるリスクが上昇してしまいます。所が鼻から吸った息は、鼻粘液で温度調節をされて、肺に届くので、感染症のリスクを引き下げるのです。

 

【口呼吸が引き起こす健康リスク】

歯科医師の佐野真弘らは、2013年、NeuroReportの12月号に「口呼吸は、鼻呼吸よりも前頭葉により酸素消費を生じる」論文を掲載しました。脳の前方に位置する前頭葉は、論理的思考、記憶、知性、動作、ふるまい、個性を司る重要な場所です。

そこに、障害が発生すると、例えば、 

子供に口呼吸の習慣があると、注意欠陥多動性障害(ADHD:Attention deficit hyperactivity disorder)の発祥のリスクを高めます。

 

注意力散漫(集中力欠如)、多動性(落ち着きのなさ)、衝動性(順番待ちが我慢できない)の、3つの特性を持った発達障害が起きてきます。

 

その他、成人でも、睡眠障害や睡眠時無呼吸症候群などの合併症を引き起こすことが報告されています。

 

これは、口呼吸で前頭葉は常に興奮状態に陥り、慢性的な疲労状態になっている事が伺えます。この事により、注意力が欠如し、学習能力や仕事の効率の低下を招いてしまうのです。

 

いきなり、重篤なADHDまでに至らなくても、就寝しても疲労が残っていたり、普段から口がぽかんと開いていたり、慢性疲労、日中に眠たくなる、注意力が散漫になる方は、口呼吸の習慣の改善に注意が必要です。

 

さらに、前頭葉が疲弊してくると、前頭葉が萎縮して機能低下が始まります。この事により、「前頭葉型認知症」の発祥のリスクを高めます。中年以降で口呼吸の場合には、こうした点にも注意が必要になってきます。

 

【舌パッチンのススメ】

最初の話に戻りましょう。

 

実は、「エネルギー開放型」と「音響型」の両方のパッチンがいっぺんに出来る組織…それが舌なのです。

 

デコピンをする時の中指は、親指にせき止められて、エネルギーを溜めた状態です。実は、ヒトの身体には、この「ばね的特性」により、本来の筋力が持っている以上のパフォーマンスを発揮する事が出来るのです。試しに、中指の先端を親指でロックしない状態で、デコピンをやってみて下さい。相手は、あまり痛くないですね。

 

舌先も同じです。

 

舌抵上顎で、舌先を上顎にペッタリと触れさせたら、舌の筋肉を使って、お口の中を目いっぱい陰圧にしてエネルギーを溜めます。もしかすると、筋肉が緊張してくると、舌の付け根にビンビンした緊張や痛みが走り、筋肉が響いた感じになるかもしれません。この時の陰圧で、既にお口の中には、既に、唾液腺から唾液がジュワッと出てきます。

 

舌の密封状態が上手く行っていれば、そのままの状態をキープしつつ、指パッチンと同じように舌先の緊張を一気に開放します。この時に、お口の中では「パッカーン」のような音が出るはずです。

 

有名なドッグトレーナーの「シーザー・ミラン」さんは、ペットの犬の調教に、頻繁に指パッチンを取り入れています。その目的は、犬の散漫になった気持ちを瞬時入れ替え、緊張と緩和を犬に教える目的があると説いています。

 

音を出すと言う事は、その周囲に振動を与える事です。そこから放たれる共振周波数によって、気の流れを整え、気持ちを入れ替え、意識を覚醒する効果があります。東洋医学の「陰陽転化」ですね。

実は、このパッチン動作が出来る身体の部位は、そう多くはありません。足の指では指パッチンは出来ません。目の瞬きもどんなに力を込めても音が出る程には動きません。

 

舌と指だけが、パッチン音を奏でる事が出来るのです。

 

おそらくこれは、脳みそが細かい制御をして、微妙な動きや機能を行う部分には、音を出すと言う機能を持たせる事で、神様は、緊張と緩和によって、動きが滞る事を防いでいるのです。

 

【舌パッチンをして舌筋を鍛える事のメリット】

① 顔立ちが引き締まってきて、若々しさを保てる

普段から、舌が下顎に収まっている方がいます。当院で担当する口臭で悩む多くの患者さんもこのタイプです。これは、舌の筋肉が普段から使えていない状態で、舌の動きが衰えている事を意味しています。すると、その影響は、顔のたるみになって現れてきます。何となく見た目より老けた顔貌になってきます。

頬がたるんで見える、ほうれい線が深くなってきた、二重アゴが出てきたなどは、大なり小なり舌筋を中心とした表情筋の老化と弛緩に有ります。舌パッチン習慣をする事で、顔の筋肉は引き締まり、若々しさを保てるでしょう。

② 発語はしっかり出来て、プレゼンや営業成績が向上する

舌先が上顎に触れて発音する言葉は、主に「さ音」「ら音」「た音」「な音」です。舌の筋肉が鍛えられ、発声が上手く出来るようになると、相手にも聞き取りやすい言葉を発する事が出来るので、自然と「語り」が上手くなり、自分の伝えたい事が、スムーズにはかどる様になります。逆に、舌抵上顎が上手く出来ない方は、会話の音声が聞き取りにくく、幼い印象の語りになってしまいます。普段から舌筋を鍛える事で、ハキハキした喋りが出来るようになります。

③ 良質の睡眠が得られる

舌抵上顎が上手く出来るようになると、睡眠中に「舌根部」が喉に下がる事が無くなるので、良質な睡眠が得られるようになります。いびき、眠りが浅い、睡眠時無呼吸症候群などが予防できます。睡眠中の血圧の上昇も抑えられて、突然死も予防できます。

 

実は、「舌パッチン」を、さらにスムーズにする姿勢が有るのですが、それは、来月のブログで紹介しましょう。ヒントは…メジャーリーガーのイチロー選手です。