「錯視」と「血管の色」と「AI」について

錯視と言う視覚効果をご存じだろうか?

色々な錯視図形があります。その中でも、米国マサチューセッツ工科大学のエドワード・エーデルソン教授により考案された発表された『チェッカーシャドー錯視』は、とくに有名です。皆さんも一度は見た事があるのではないでしょうか?

 

この、「A」と「B」のタイルは、色彩学的には、同じ色になるのですが、何回目視してみても、違う色に見えてしまいます。

 

これは、何も図形上だけで起きる現象ではなく、実際に立体模型で再現した動画もYouTubeにアップされています。リアルな世界でも錯視は起きているのですね。

https://youtu.be/z9Sen1HTu5o

仮に、こうした錯視の現象が、現実生活でも起きているのであれば、私たちの身の回りでも、同様の錯覚は起きていないのでしょうか?

実は、すごく身近な所で確認する事が出来ます。

ご自分の腕を良く見てみて下さい。皮膚の下を流れる静脈の血管は何色に見えますか?

 

赤・青・緑・黒・紫でしょうか?

 

色は、「色相」「彩度」「明度」の3次元空間に1点に位置して、その物の色の「番地」が決定しています。この色を図る測色計で測ってみると、実は、血管の色は「灰色」と判定するそうです。どう見ても灰色には見えませんよね。

 

青筋を立てて怒る…は、灰色筋を立てて怒る。のが、本当の表現なのです。

 

もう一度、アップした画像を、よーく見てみて下さい。灰色と言う視点で見ると、何となくそう見えなくもないですね。実は、この辺の分野を研究した先生がいます。

 

立命館大学文学部心理学専攻の 北岡明佳教授は、

 

「人間の静脈は、実は灰色で、錯視によって青色に見えているだけ」と言う事を発見しました。

 

人間の視覚には、前述した「チェッカーシャドー錯視」が起きていて、静脈の血管の色も、タイルの色と同じように、同じ色が周囲の色との対比によって、違う色に見えてしまっている訳です。

今回、北岡教授は、錯視研究の中で、灰色と肌色が混在した絵を見ている時に、チェッカーシャドーの色タイルと同じように、灰色が青色に見えていることに着目し、「人間の静脈も同じ原理で青色に見えているのでは」と検討を加えました。

ヒトの腕や脚を撮影して画像処理ソフトで検証した所、R(赤)G(緑)B(青)領域の数値は、黄色味を含んだ灰色の値を示しました。

この事から、静脈の色は周囲の肌色と、静脈の部分の灰色の対比により、錯視によって青色と認識している事が解明されました。

 

この新しい発見は、是非「イグノーベル賞」にエントリーしてもらいたいレベルです…。

 

しかしながら、肌の色が異なる人の場合、同様の錯視が起きているのか?については、まだまだ解明が進んでいないので、続報を待たねばなりません。

 

実は、この知見は、私達、東洋医学を学ぶものにとっても非常に関係して来ます。

拙書、「病気の9割を寄せつけない たった1つの習慣」にも記述しましたが、自分体質を見定める時には、「舌診」を行います。

 

その中にで、陰陽五行説の肝・心・脾・肺・腎に相当する色は、になり、それに加えて、ドロドロ血には、「紫」等も関係してきます。

 

この色味の情報が、根底から間違っている可能性が出てくるのです。

 

肝:青、心:赤、脾:黄、肺:白、腎:黒の五色が配当されます。もし、患者さんの舌や爪の色、顔色を拝見する時に、そこに錯視が起きているとしたら…、我々東洋医学を志す従事者は、何を頼りに患者さんの体質を考えればよいのか?判断に悩む事になります。

 

紫舌…と思っていた舌の色が、実は黄色だったと言う事も充分考えられます。そもそも、人が認識できる色の領域は、380~780nm(ナノメーター)と言われています。それより外れた色は、赤外線領域と紫外線領域になり、人の目では見る事が出来ません。

 

日々の臨床の中で、患者さんの舌の色を診る時に、その周りの歯の色や歯肉の色が、錯視として影響しているかもしれないと考える時、今一度、客観性と主観的な部分の「ズレ」を再考する必要があると思いました。

 

 

所で、この錯視と言う現象、以前のブログにも登場した「AI」(人工知能)にディープラーニングさせたら、AIは、どの様に認識するのか?考察してみましょう。

前述した北岡教授をはじめとする立命館大学の研究チームは、「蛇の回転錯視」の画像を、深層学習機のAIで判断させた所、やはり、動いていると認識しました。

 

 

 

この錯視が起きる原因は、大脳における「予測符号化理論」がベースとなっています。

 

予測符号化理論とは、大脳は常に入力される感覚情報を予測しており、この予測と実際の感覚情報との「差」を学習していくと言う理論です。北岡教授は、この機能を組み込んだディープラーニングマシンを開発して、AIが人間の脳機能を、どの位再現しているか?のテストをした所、人間と同様に、「動いている」と判断してしまいました。

 

これは、非常に重要で、例えば、今後セキュリティや機械部品の制御をAIに任せようと思った時に、「誤作動」を起こす事も充分考えられるからです。誰も侵入していないのに、何かの錯視の偶然が重なった時に、アラームが鳴りだす事も充分考えられます。

 

ただ、一安心なのは、北岡教授は、AIに対して錯視が起きないように修正できる事も確認しているので、将来は、安全性の高い人工知能に発展していくものと考えられます。

 

 

 

そう言えば、トンデモ科学の世界では、宇宙人の存在は、「グレイ」(灰色)と言われています。

 

もし、ヒトの目に錯視が起きているのだとしたら、本当の宇宙人の肌の色は、何色なのだろう?と、思いを巡らしてしまいますね。