「イグノーベル賞の世界展」と「ムー展」へ行ってきた

10月某日、トンデモ科学好きの私としては、夢の様なイベントがやってきました。

以前、トンデモ科学には、「真正」なものと「怪しい」ものの2種類があるとご案内しました。

 

真正な物が、「イグノーベル賞」で、科学者が基礎研究において、「笑わせて…考えさえる」を目的として、オモシロ真面目に、世の中の不思議な事の解明する為の研究をして、発表・受賞する機会を毎年行っています。

 

一方、怪しい物は、日本においては「月刊ムー」です。こちらは、UFO、オカルト、超能力、陰謀論、終末予言など分野を掘り下げる専門雑誌です。眉唾なものから信ぴょう性の高いレポートまで、「信じるか信じないかは、あなた次第」と言うスタンスで、海外のトンデモ科学的な記事や日本のふしぎ発見を報告しています。今年で創刊40周年になりました。色々なファッション雑誌、グルメ雑誌、求人誌などが、相次いで休刊や廃刊になる中で、40年間も続いてきたのは、非常に意義のある事だと思っています。

 

そして、ナントナント、この10月に東京ドームで「イグノーベル賞の世界展」が、池袋パルコミュージアムで「ムー展」の2大イベントが、一度に執り行われる事となり、何としても見逃す訳にはいかない思いで、馳せ参じてきました。

 

イグノーベル賞の世界展は、事前に「ヤフオク」でチケットを安く手に入れていたので、カミさんと二人で、1名分のコストで参加できました。

 

 

どちらとも、写真撮影OKだったので、思う存分、撮りまくってきました。

 

●まず、正統トンデモ科学のイグノーベル賞の世界展で、私が一番興味を持ったのは…、

「なぜスパゲティは2本でなく 3本に折れるのか?」です。

乾麺のスパゲッティの両端も持って、徐々に湾曲させていきます。内部の応力が限界を超えると破断をするのですが、何故か、真ん中からポキンと、真っ二つに割れずに、何回やっても、私の場合は、3つのパーツに別れて折れました。会場では、画像の左下端にスパゲッティが置いてあり、実際にその場で試みる事が出来ます。

 

力学的には、最も脆弱な所を中心に2つに分かれる…と、想像しがちですが、実際は「3つに」割れるのです。

 

歯科大学では、「理工学」を学ぶ単位があり、セメントや金属の破壊試験、圧縮試験、冶金学などを学びます。私の固定観念は、一番弱い部分が真っ先に破断すると思っていました。

 

ごくごく短時間で同時に、「2か所」で割れる事は、力学的にもあまり考えられない事です。

 

なぜ、3つに分解するのか?どの様な仕組みが働いて割れるのか?マサチューセッツ工科大学とコーネル大学の研究チームの科学者が、真剣にその謎を解き明かしています。

 

サイト名:ねとらば、から引用しました

MIT、スパゲティを半分に折る方法を発見 3つ以上に折れる理由の判明から13年を経て

まさかの方法。http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1808/17/news092.html

 

研究結果を要約すると、同時に2か所で破断するとばかり思っていましたが、実際の現象は異なる物でした。ハイスピード撮影をすると、まず、1箇所目で最初の破折が起きます。すると、長めに残った断端が、エネルギーが解放された影響で、大きくたわんで、ビヨヨーンと振動します。最後に、その破折エネルギーが、スパゲッティの中を伝達し、もう一度別の場所で、2箇所目の破断が、遅れて起きているのです。

 

同時に、2カ所で、ポキンと折れるのではなくて、「時間差」があったのですね。

http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1808/17/news092.html

こちらのサイトで、スローモーションで破折する様子の瞬間映像が確認できます。

 

さらに、この研究チームがすごいのは、どうやったら、2つに割る事が出来るか?についても、検証を加えています。その方法は、スパゲッティに対し270度のねじりを加えてから、破折すると、真っ二つに割れる事を突き止めました。

 

こうした研究を、ナント、13年もかけて研究しているのです。一つの事を探求し続ける研究者魂には、本当に恐れ入る所がありますね。

 

歯科で取り扱う、患者さんの口腔内に収めるセラミック冠なども、設計を誤ると破折する場合があります。最も薄い所を中心に、放射状に割れるケースもあります。一概に、同じ土俵で評価する事は難しいと思いますが、顕微鏡レベルでは、マイクロクラックが生じて、ある時、バキッと割れる際に、綺麗に真っ二つに割れずに、幾つかのパーツに分かれて破折する現象にも「何かのヒミツ」が隠れているのかもしれない。と、妙に納得してしまいました。

 

●続いて、怪しいトンデモ科学の、「ムー展」に出向きました。

こちらは何といっても、超能力者のユリゲラーが、実際に曲げたスプーンが展示されていました。しかも、本人のサイン入りです。

 

若い方は、あまりご存じないかもしれませんが、1970年代、日本テレビで「木曜スペシャル」と言う番組が放送されていました。当時は、放送倫理規定などのコンプライアンスが厳しくなかったので、結構何でもアリの番組構成でした。

 

同時期には、萩本欣一さんと坂上二郎さんのコント55号が、若いモデルさんと「野球拳」をして、衣服を脱ぎ脱ぎして、最後は、女の子が脱ぐものが無くなり、バスタオルで身体をくるんで退場する…なんて言う放送も平気でオンエアされていました。古き良き昭和の時代です。

 

さて、木曜スペシャルに招かれた、ユリゲラー氏は、スプーンを指でこすると、あら不思議、アメ細工のように金属がグニャリと曲がって行きました。

 

「お茶の間でも、やってみて下さい」と言うものですから、家族中で画面に食い入るようにしてスプーン曲げに挑戦していました。

そんな中で、普段から霊感が強い姉のスプーンが、2cm程、曲がったのには、本当に驚かされ、「これは、ただ事ではない!」と、子供ながらに思ったりしていました。スタジオにも何台も電話機が用意され、実際に曲がった…と言う視聴者から、電話が引っ切り無しにかかっていた事を今でも覚えています。

 

その後、日本中に「超能力少年」が出現し、真贋論争のフィーバーが続きました。その中で、力業で曲げているシーンが激写されて、ブームは収束して行きました。

あの熱狂は、何だったのか?と、今も思い返します。

 

仮にも、超能力が、超・能力であるのならば、その能力は、何らかの形で社会に還元されなければなりません。

 

私たちの業界では、部分入れ歯を支えるために、「クラスプ」と言う金属のバネを作り、入れ歯に組み込む事で、咀嚼機能を回復させます。このクラスプは、コバルトクロム合金で作られており、プライヤーと言うペンチのような道具を活用して、実際の歯の形にピッタリ収まる様に、丁寧に少しずつ手作業で曲げていきます。

 

もし、指でなぞるだけで簡単に曲げる事が出来るのであれば、是非、超能力少年の皆さんは、このクラスプを飴細工のように曲げてもらいたい所です。明日からでも歯科技工士になれば、サッサッと入れ歯を作る事が出来て、引っ張りダコの職種になっていたでしょう。

 

ただ、いつも曲げるのはスプーンだけで、やがて、そのフォーバーも冷えていきました。

 

普段から、「トンデモ化学好き」を公言していますが、私は、熱狂的な支持論者でも、懐疑論者でもありません。怪しいトンデモも真正なトンデモも、公正な視点で偏見にならない様に楽しんでいます。

 

10月の同じ時期に、2つのトンデモ科学が催された事は、非常に意味のあるイベントだったと思います。そして、この両者の境界は、既に明確には存在しないのかもしれません。

 

いつ何時、怪しいトンデモ科学から、正当化学に昇格する事もありますし、また逆に、正当化学からトンデモの方に格下げされる事も、これからドンドン起きてくるでしょう。これからも、中立な目線で、オモシロ真面目を楽しんで行きたいと考えています。