カーボンナノチューブを用いて、可視光の99.965%を吸収する『VANTA BLACK』と言う塗料をご存知でしょうか?逆に考えれば、光の反射率は、0.036%しかない訳です。
これが何を意味しているかと言うと、
実は、物の色を認識する仕組みは、ある物体に光が届くと、光は吸収を受けますが、一部の特定の波長成分だけが跳ね返ってくるので、その光の成分によって、ヒトの目には、赤や青に見える訳です。
夕焼けが赤く見えるのも、宝石が青く光るのも、同じ原理で、色として認識されます。
と言う事は、反射率が限りなく「0」に近い物質は、ベタっとした漆黒の真っ黒に見えてしまいます。
VANTA BLACKは、人工の素材で、最も黒い物質として世界記録を持つ塗料です。非常に黒いので、本来真っ黒である事が好ましい所に重用されています。
例えば、衛星搭載の黒体較正システムとして開発されましたが、そのユニークな物理的特性と光学的特性により、現在では、顕微鏡、ディスプレイ、天体望遠鏡などへ応用されています
以下の動画をご覧ください。
クシャクシャにしたアルミ箔に、この塗料を塗布すると、光の反射が全く起きないので、そこだけ。ポッカリを抜けたように、立体感が感じられない暗黒の闇が広がってしまいます。
あんまり黒いので、それが、物体なのか?穴が開いているのか?もはや、本来のそこに存在する形を識別する事すら困難になってしまいます。
そして、そして、ナント、自動車メーカーが、この塗料を採用して塗装したモデルが市販化されようとしています。
https://bestcarweb.jp/news/newcar/90796
一見して解る様に、反射率が限りなくゼロに近いので、ベタッと真っ黒に見えています。「ボディーの凹凸」による反射が無いので、殆ど平面的に見えてしまい、本来のデザインが判別不能になっています。
解るのは、腎臓を意味する「キドニーグリル」と、ヘッドライト、ガラスエリアだけです。
これは、写真で見るより、実際にこの目で見た方が、その異様な感じが伝わると思います。でも、反射する物が少ないと言う事は、そこに物体としての実質が存在しない…事にもつながります。
近年では、車載器のカメラや、レーダー波などで、衝突回避や自動運転で、車を制御しようと言う機能が搭載されています。
もしかしたら、こうした塗料が採用された車は、「ステルス性能」を有してしまい、事故を誘発する事も懸念されるかもしれません。本当に市販化されるのかどうか、メーカーの動向を見守っていきたいですね。
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所で、日本の文化にも「お歯黒」と言う風習がありました。
我が国におけるお歯黒の起源は、諸説があり、古墳から発見された人骨や埴輪(はにわ)にも、既にその風習の痕跡が認められていました。
その歴史は、奈良、平安、鎌倉、室町、戦国そして江戸時代へと続き、明治初期まで続き、日本においては、1200年以上の歴史があります。当初は、女性の上流階級だけでしたが、徐々に一般庶民に浸透して行きました。その後、既婚の女性を指し示す風習として広がって行きました。
お歯黒の成分は、鉄奨水(かねみず)と五倍子紛(ふしこ)から構成されています。
●鉄奨水は、主に酢酸第一鉄が主成分で、第一鉄イオンは、歯のエナメル質を強固にして、耐酸性を強くする効果があります。
●五倍子紛は、タンニンと呼ばれる植物の渋味の事で、お茶やワインにも含まれる成分です。もちろん、私が専門に扱う、漢方薬にも沢山入っています。タンニンは、歯のタンパク質を凝固・収縮させ、細菌による歯の溶解を防ぐ効能があります。
実は、お歯黒には、以下の様な効能があります。
1. 虫歯を作りにくい
2. 虫歯なった歯に対しても、虫歯の進行を抑制する
3. 知覚過敏な部分をコーティングして、痛みを鈍麻する
4.でも、もしかしたら、今回の「VANTA BLACK」の黒さを考えると、口腔内の空間を黒くする事で、歯の凹凸、歯並びの悪さを、平面的に見せる事で、見た目の不揃いな感じを打ち消す効果もあったのかもしれないと考えました。
現代人が、必要以上に、歯にホワイトニングを施術したり、セラミック治療で、非常に白い色を好む風潮と、真逆に美意識が存在している所に、美しさの変遷が伺えて興味深いです。