不思議な世界を探求する「IMAの会」のメンバーのT女史のススメで、葉室頼昭著『神道のこころ』を読んでみました。
なかなか、スゴイ事が書いてありました。
葉室氏の経歴を見てみましょう。
1927年東京に生まれ、公家の藤原家の流れを汲む、伯爵家として生まれ、幼少より高等教区まで学習院で学業を学ぶ。その後、大阪大学医学部を卒業後、形成外科を標榜して開業。
診療と並行して通信教育で神職の研鑽を深め、神職の最高階位である明階を取得する。
神社庁の推薦を受け、東大阪市にある枚岡神社の宮司の経歴を経て、平成6年、春日大社の宮司に就任する。平成20年、春日大社宮司を退任。翌21年、肺炎で逝去されています。
その密度と濃度に関しては、比べるべくも無いですが、私が今まで歩んできた道のりと、非常に近い所があるので、引き込まれるように読了しました。
①幼少期より、神様の導きを意識した人生を歩み
②西洋医学の医療従事者の経験を経て
③鍼灸の世界の素晴らしさを知り、東洋医学の研鑽を深め、日常臨床に導入
④神道の道を歩んで行く
と言う部分が、とても似ていて共感がえられました。
もちろん、本書の中に有る様に、葉室氏の方が、何倍も素晴らしい活動をしているのですが、一気に読み進んでしまいました。
その中で、同氏は、
●宇宙と地球と生物が作り出す、「バランス」が最も重要である事
●我々の命は、神様によって「生かされている」事
●病になって問題を抱えている身体の部位に、感謝の心をもって気を送ると、症状が楽になる事などが、心に響きました。
私の専門分野であれば、
例えば、虫歯の場合、神経に達してしまえば、夜も眠れない位の痛みが出てきます。患者さんにとっては、一刻も早く、辛い症状から離脱したい所です。
その時に、ただ「痛い」→「早く治したい」ではなくて、
「今まで、文句も言わずに、一所懸命食材を咬み砕いて、美味しい食事をさせてくれて、本当に有難うございます」と、歯に対して感謝の心を捧げるのです。
こうする事で、身体は、神様は、必ずその願いを聞き入れてくれて、様々な症状が改善した…と、本書では記述しています。
また、脳卒中で倒れた方に対して、小指の先から出血をさせて、重篤にならずに済んだという記述もありました。
これは、鍼灸では、「井穴刺絡」という立派な施術で、私も時々臨床で使っています。
井穴刺絡(せいけつしらく)治療とは、横浜の内科医、浅見鐡男医学博士が、45年間の臨床経験をベースにして、西洋医学と東洋医学の良い所をくみ取って編み出した治療法です。
井穴刺絡は、手足の爪の角に位置していて、爪の縦と横の最大膨隆部より推薦を下ろし、その交わる所になります。そのツボに針を刺して、点状出血させる療法です。
一般的には、注射用の太めの針を使うのですが、傷口の切皮が弱く、時として、すぐに出血が止まってしまいます。より本格的に井穴刺絡を施術するのであれば、鍼灸領域では「三稜針」と言う専用の針を使用します。
これは、読んで字のごとし、三角形に三つの鋭利な歯の部分が付与されており、これで、一突きすると、傷口が三方に開くので、簡単には血は止まらなくなります。
病の根源は、自律神経の異常亢進だと捉え、その最も集中してうっ血している所から、瀉血をすると、一切の病気の症状が整うと言われています。
瀉血は多い時で、約30~40滴位、絞り出す時もあります。
瀉血をすると、不思議と自律神経が安静になり、無意識化で人体を調整している交感神経と副交感神経の異常亢進を抑制して、生体の恒常性を維持する働きがあります。
この爪の角に存在する、井穴は、いわば、ツボの出発点であり終着点でもあります。高血圧、急性炎症、脳卒中に対して、劇的な効果を発揮します。
ただ、何も症状がない方に応用すると、時として、脳貧血になってフラフラしてしまう時もあるので、生兵法は禁物です。
また、葉室氏が志した「神職への道」ですが、現在は、相当ハードルが高い事が解ってきました。わが国では、神職資格取得課程を行っている所は、
「國學院大學」と「皇學館大学」の2ヶ所に限定されます。
また、修行をしながら学ぶ所として神職養成所は、
・出羽三山神社神職養成所(山形県)
・志波彦神社 塩竈神社神職養成所(宮城県)
・熱田神宮学院(愛知県)
・京都國學院(京都府)
・神宮研修所(三重県)
・大社國學館(島根県)
等がありますが、入所に関しては、「神社本庁」からの推薦状が必須です。とても、一般人がいきなり入所する事は難しく、かなりハードルが高い事が解ります。
また、全国で唯一、大阪國學院が、「通信教育」で神職資格取得通信課程を実施しています。ただし、誰でも受講できる訳ではありません。実家の神社が急病などで維持が難しくなり、やむを得ず、家族のものが神職に従事しなければならない場合などに限られるみたいです。同時に、やはり、神社本庁の推薦状がないと、入学することができないようです。
葉室氏は、こうした高い障壁を乗り越えて、資格を取ったのですから、本当にスゴイ業績を残された方なのだと思います。本書にも記載されていますが、神職になる為には、日本の事をその起源から理解していなければならないので、「古事記」や「日本書紀」などの古典についても必死に勉強したと記述しています。できることなら、生前に勉強会などを通じて、多くのことを学び取りたかったです。