唾液と免疫について、歯科医師的考察

 

コロナ肺炎により、社会生活が激変しました。

実は、免疫力に唾液が貢献している事は、あまり知られていません。

今回は、唾液が持つ、免疫システムについて触れておきましょう。

 

【粘膜免疫とは?】

唾液は、「白い血液」とも称されるように、唾液の性状の変化により、全身の健康状態に影響を与え、また、その逆に、身体の変調が、唾液の質にも変化を与えている事が解ってきました。

特に、唾液中には、粘膜の表面をヌメリ感によって保護するムチンと言う成分や、消化を促す消化酵素、細胞の活性に必要なコラーゲン、ヒアルロン酸などの物質を含んでいます。

 

生命活動を担う諸機関の「入口」として、生体防御を担ってくれているのです。

 

その中でも、お口の中には、「粘膜免疫」と言う働きがあり、歯肉、喉などの粘膜組織で、病原菌やウィルスの侵入を防ぐ働きをしています。

 

実は、この粘膜免疫は、粘膜面上に存在している「免疫物質」によってもたらされます。

これが「IgA抗体」(以下IgAと略す)です。

 

抗体とは、侵入してきた外敵にとりつき、これを無力化する働きをもつ物質の事です。一般的には、タンパク質で構成されていて、広く「免疫グロブリン」と呼ばれます。

 

ところで、口内細菌や腸管の中に存在する菌を採取し、それを注射で血清中に注入すると、血液中で増殖して、ヒトは一気に敗血症になってしまいます。こうした事が起きないように、IgAの免疫グロブリンは、粘膜面の最前線で働き、人体にとって無害なものにしてくれているのです。

 

実は、IgAは、特定のウィルスや細菌にのみ働く訳ではなくて、各種の病原体にも作用します。ヒトの免疫機構の中で、とても守備範囲が広いのが大きな特徴です。そして、IgAの働きが低下すると、ウィルスの侵入を容易にしてしまい、病気に罹患しやすくなります。

この事は、一般的な風邪(上気道感染症)の発症と唾液中に含まれるIgAの濃度との相関を検証した結果、多くのレポートで相関性があった事が報告されています。逆に、IgAが少ない時は、易感冒、慢性疲労、倦怠感が出てしまいます。

 

このIgAの働きは、身体の中の粘膜部分に大なり小なり存在しており、腸管壁、生殖器、涙を出す涙腺などにも見られます。

その中でも、母乳にはIgAが特に多く含まれており、赤ちゃんを感染から守っています。

特に、初乳にIgAは多く含まれています。

 

 

当院が推奨している口内環境を整える施術として、「善玉菌補充療法」があり、ラクトバシルス・ロイテリ菌を採用しています。

 

実は、このロイテリ菌は、ヒトの母乳由来の菌株を培養し製品化したものです。

口臭の患者さんで、臭いを作る悪玉菌を除菌療法で殺菌した後に、ロイテリ菌を植え付ける事で、口腔内の善玉菌と悪玉菌のバランスを整えています。

 

こうした菌が住み着いてくれると、患者さんからは、

●お口の中がとても、スッキリ・サッパリした。

●風邪を引かなくなった

●口の中が、粘つき感・酸っぱい感じ・苦みが少なくなったという評価を頂戴しています。

 

このIgAを増やしておくことは、コロナウィルスの感染予防にも一役買っていると考えています。

 

そして、最もIgAを減らしてしまう習慣の一つに、「喫煙」があります。

今回のコロナ肺炎で、惜しまれながらもコメディアンの志村けんさんが亡くなられました。

メディアの情報では、多い時で、1日に2箱は喫煙をしていたそうです。

 

 

喫煙は、免疫機能を抑制的に働いてしまうのです。

その中でも、ニコチンは、身体を防御してくれる好中球が持つ「貪食機能」を低下させて、マクロファージと言う免疫機構による抗原提示機能も抑制的に作用してしまいます。

また、粘膜免疫のIgAや細菌やウィルス、薬剤に対し、生体反応を示す働きの、免疫グロブリンG(IgG)の低下も招きます。

この事から、喫煙習慣は、歯周病を悪化させる危険因子であるばかりか、インフルエンザやコロナウィルスにも感染しやすくなる増悪因子なのです。