左下腹部痛について…東洋医学的考察

 

最近、患者さんのお悩みを伺うにあたり、特に女性の方から「左下腹部痛」がある。という相談を受ける時があります。

 

今回は、今一度、その事がヒトの体に、どの様に関係しているのか?を備忘録としてまとめてみました。

 

私が鍼灸師になるために夜間の専門学校に通っていた時、臨床実習を学生同士で行う講義がありました。

 

老いも若きも、男も女も、お互いに肌を露出して、ツボの場所を探したり、身体の反応点を手で触ったりして、身体から発せられている経絡の情報を汲み取るのです。お尻のツボに銀針を刺入するときなどは、下着をめくって、殆ど「半ケツ状態」になって、見て・触って・反応を確かめるのです。

 

学校に通っていた当時は、39~42歳までの3年間、夜の6~9時までの講義を受講していました。夜間の学校とはいえ、その時の私の年齢は、1学年の中で、上から2番目の年長さんでした。

 

私はそんなに多くの女性経験がある訳ではないので、女性の身体を手の平や指先で、ベタベタ触る事は、慣れていません。特に、20歳代の女性の同級生に対し、最初の内は、とても遠慮がちに「ごめんね…少し触るね」などの断りを入れて、ビクビク・おどおどしながら、触っていました。

 

すると、私より一回り以上の年下の講師の先生がすっ飛んできて、

「中城さん、これは実習なので、遠慮しないで手の平全体で、堂々とガシッと触ってください」

「そんなやり方では、身体からの情報は、何もわかりませんよ」

「私が、見本を見せますので、このように触ってください」と、指導を受けました。

 

こんな学園生活も、徐々に皆の気心が知れ渡れば、連帯感が出てきます。年齢も生い立ちも違うけれど、同級生としての仲間意識が芽生えだし、卒業する頃には、何の抵抗感もなく、ベタベタ触れるようになりました。

 

そんな授業の中で、「腹診」の講義がありました。

 

見せ合う場所は、上は、女性の場合は、バストの膨らみが解り始める、乳房の下縁から、下は、パンティーを少し下げて、ヘアーが見えてしまうギリギリの所まで、露出させます。

 

「ニヤニヤしている暇などありません」

「やるしかないのです」

 

授業の中で講師の先生が、私たち学生の身体を腹診し、

「これは、誰でも分かるくらい、ハッキリとした所見が出ている」方が見つかると、その日の授業は、その方がサンプルの実験台の役目を担うことになり、クラス全員から、入れ替わり立ち代わり、体を触られることになります。

 

そんな中で、一人の女性の方が、「へそ下、左下腹部」を押すと、「イタタッ、それ以上押さないで!」と、苦しがるくらい痛みを訴える方がいました。

 

講師の先生は、「OK、今日は、○○さんを検体として、講義をしましょう。左下腹部は、お血の典型的な所見なので、よく覚えておくように」という教えを受けました。

 

当時は、そんな所が本当に痛いことなんて、西洋医学的に見たら、あまり考えられないようなぁ…と、半信半疑でしたが、後々、とても重要であったことが解ってきます。

そしてこの知見は、現在の私の日常臨床にもずいぶん役立っています。

 

つい最近も、患者さんからの問診の中で、若い女性の方からの訴えで、「左下腹部痛がある」という相談を受けました。鍼灸の夜間専門学校を卒業して、28年、少しは、患者さんから発せられる、身体のシグナルサインをくみ取れるようになりました。

ただし、歯科診療の中で、診療台の上で、女性の方の腹部をはだける事は、いきなりできる訳ではありません。もしかしたら、セクハラで訴えられるかもしれません。

 

「左下腹部痛」という情報が解り、「お血体質」かもしれない…という察しが付けば、

実は、直接お腹を拝見しなくても、身体のその他の部位に同様の変化が出ている事が出ているのです。ですから、あとは、そちらを確認するだけで十分なのです。

その変化は、例えば、目の下のクマ、爪の付け根の甘皮の部分、そして、「舌診」にも変調は出ています。

 

案の定、その患者さんのその他の部位にも、「どす黒いような、紫色の変化」が、随所に出ていました。

 

それでは、なぜ、東洋医学では、お血体質になると左下腹部痛が出てくるのでしょう?

 

その答えは、『お血に関連する腹部圧痛点の発現機序に関する考察』、寺澤捷年著の論文から引用してみましょう。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed/67/4/67_354/_pdf

 

なぜ、へそ下の左側だけを重要視するのか?

実は、右へそ下には、「回盲弁」(小腸から大腸に移行する部に存在する弁)が存在し、左へそ下には、「S状結腸」(直腸につながる屈曲点)が存在しています。

そして、その両者の部位は、上腹壁動脈から続く下腹壁動脈の「最末端」に位置しているのです。

 

右下腹部は、回盲弁に位置していることから、大便が大腸を巡り始めるスタート点です。まだ、便も泥状です。大腸のグルッと回る工程を経て、徐々に大便なっていきます。

これに対し、左下腹部は、うんちになって、排出されるべく準備を整えた、最終到達点です。

 

ここで、一つの仮説が成り立ちます。

 

お血は、現代風に言えば、「ドロドロ血」に相当します。血の滞りです。

そして、多くの場合、「便秘」の症状を抱えます。

そう考えると、

●血液の滞りを見定めるための最末端である「下腹壁動脈」と、

●便秘になり、便が硬く滞っている「S状結腸」の場所は、

ドンピシャと、2点で重なってくるのです。

 

血液の滞りポイントと便の硬くなったポイントが、ダブルで起きている所を、上から押して腹診をしたらどうなるでしょう?

誰だって、「イテテッ」と、なるのではないでしょうか?

 

そして、この「お血」から始まる口臭は、やはり血生臭いような臭気を伴います。

この所見は、現在の私の口臭治療に、ものすごく役に立っている重要な問診項目です。