便秘と生薬に関して

 

最近、患者さんからの問い合わせの中で、

 

「以前よりも便秘がひどくなった気がする」

「それと連動して、口臭も強くなった気がする」

 

という問い合わせを受けます。

コロナ肺炎の影響を受けて、自宅で過ごす機会が増えたことも影響しているのかもしれません。腸は、「蠕動運動」をしています。便の疎通を促すために、常に、クネクネ動きながら、肛門の方へと送り出す動きをしています。

 

もしかしたら、家でゴロゴロしている事で、腸内で便が停滞している事も充分考えられます。

腸管内に便が長く停滞すると、腐敗臭が発生し、巡り巡って呼気中に臭いが戻ってきます。

 

そこで、口臭を改善するために、生薬構成を考えていくのですが、体質によって、微妙にさじ加減が変わってきます。今回は、復習の意味も込めて、今一度、瀉下剤(しゃげざい)について、まとめておきましょう。

 

瀉下とは、便秘傾向の状態を改善し、滞っている便を、スムーズに排便させることです。便を身体からデトックスさせることで、身体の中にたまった「病邪」を追い出し、便と共に「熱邪」を排出する事で、炎症を鎮静化させる効能があります。また、血液の滞りから生じた、お血などの体内にとって毒物を、身体の外に排出する作用もあります。また、便秘傾向の改善は、痔出血、脱肛などの肛門疾患も間接的に緩解させていきます。

 

瀉下剤は、大きく分けて、病態に応じて「寒下剤」「温下剤」「潤下剤」「逐水剤」に分けられます。

 

●寒下剤…お腹の中を冷やして、排便を促す

●温下剤…冷え性で便が硬くなっている時に、便を温めて、柔らかくして排便を促す

●潤下剤…腸管壁にヌルヌルを増やして、排便を促す

●逐水剤…体内に溜まった余剰な水分を便の方に振り分け、排便と共に排出する

 

 

よく使う便秘を改善する生薬名

生薬名 由来 薬性 薬能
大黄(だいおう) ダイオウの根茎 遮熱通腸・清熱瀉火・涼血解毒・行瘀破責任
芒硝(ぼうしょう) 含水硫酸ナトリウム 微寒 瀉熱通便・潤燥軟堅・清熱消腫
杏仁(あんにん) アンズの仁 止咳平喘・潤腸通便
桃仁(とうにん) モモの種の中にある子仁 破瘀行血・潤腸通便

 

代表方剤:調胃承気湯、麻子仁丸、潤腸湯、桃核承気湯など

 

この中で、日常臨床でよく使う、「大黄」「芒硝」の使い分けについて、再確認しておきたいと思います。

両方とも、下剤としての効能だけではなく、

●気の鬱屈(現代風に言えば、ストレス)傾向の改善

●血の停滞(現代風に言えば、ドロドロ血)の疎通

●熱のこもりによる、炎症性病変を緩解するなどの作用があります。

 

ここで重要なのは、「大黄」も「芒硝」も便秘薬として同じ作用がありますが、この両者には大きな違いが、一点だけあります。

 

「大黄」は「乾かす」効能があるのに対して、

「芒硝」は「潤す」効能がある事です。

 

この事は、実は、西洋医学の便秘薬にも同じような概念が適用されている所が面白いです。

実は、「大黄」には、センノシドと言う成分が含まれており、同名の西洋薬があります。センノシドは大腸を刺激して、排便を促します。時として、出る時に腹痛を伴う事もあります。

 

一方、「芒硝」には、酸化マグネシウムという成分が含まれ、同名の西洋薬があります。酸化マグネシウムは、腸管内での水の再吸収を抑制することで、便をシットリした性状に変えて、便に水分を与えることで、排便を促します。出る時に、不思議なくらいスルリンと出てしまいます。

 

この事から、便が硬くて出にくい時には、「芒硝」を加え、高齢者などで、いきむ力が衰え、スムーズに排便ができないときは、少し大黄を加味すると、心地良く排便を促します。

 

私は日常臨床で、口臭に関連する便秘の処方を考える時に、3段階に分けて処方を組むようにしています。1番が軽くて、2番は中くらい、3番は最強バージョンです。

1番:芒硝単味

2番:芒硝に加えて、同じように便を潤す、「麻子仁」(ましにん)を加味

3番:芒硝に加えて、大黄を加味

 

おおよそこんな感じで処方を考えています。

但し、3番は、最強バージョンなので、いきなりここから処方すると、

患者さんは、「日常生活で支障が出るくらい、ドバドバになってしまいました」

と、評価してくるので、慎重に投与していきます。二度と漢方薬を飲んでくれなくなります。穏やかなものから順に処方する事が重要です。

 

また、「大黄」には、連用した場合、身体に耐性ができてしまい、薬として効きにくい体になってしまいます。いくら大黄を飲んでも、びくともしない「弛緩性便秘」になる事があります。さらに、長期服用をしてしまうと、腸管にある粘膜細胞にダメージを与えてしまい、大腸の粘膜が黒質化してくる「大腸メラノーシス」に移行していきます。類書を検索すると、内視鏡画像が、あたかもヒョウ柄模様の黒い腸管壁を呈してきます。

 

ただ、腸管の粘膜は、比較的早く細胞が入れ替わっていきますので、服用を中断すれば、徐々に綺麗な腸管壁に戻っていきます。

 

便秘を改善する生薬は、切れ味が良く、身体の反応がすぐに出てくるので、患者さんにも喜ばれることが多いのですが、慎重に投与しないと、身体に副反応が出る事もあるので、注意が必要です。