歯科用除菌軟膏について

 

当院の口臭対策プログラムの中で、特に硫化水素が高値を示す方には、「除菌療法」が有効な時があります。

その中で、患者さんからは、

「この除菌軟膏は、どういった薬なのですか?」と言う問い合わせを多数頂戴します。

医療機関として薬剤を使う上で、非常に重要な部分を抱えているので、今回は、この薬剤についてまとめておきたいと思います。

薬剤を扱う上で、重要となる部分は、

1.安全性

2.有効性

3.操作性などが、求められると思います。

 

【安全性】

こちらに事に関しては、この薬剤が持つ歴史を考えてみると良いと思います。歯科用除菌軟膏の「ペリオフィール」は、昭和薬品化工株式会社が製造しており、同社のホームページでは、薬剤販売年月日は、2000年9月14日と記載されています。

 

実に、20年以上、歯科業界で流通してきたことになります。

 

その長い歴史の間に、重篤な副作用や相互作用などがおきてしまったら、市場から消えてしまう可能性の中、特に大きな問題もなく、私たちの歯科治療において、広く用いられています。私も、本剤を用いて15年間経過していますが、一度も、副作用らしき所見を経験したことがないです。

 

ペリオフィール除菌軟膏は、一般名:ミノサイクリン塩酸塩と言います。1本のカートリッジに2%含有しています。

最も注意しなければならない点は、テトラサイクリン系抗生物質に対し、過敏症の既往歴がある患者さんには注意が必要な点です。薬物アレルギーに関して問診は必須です。

 

ところで、口腔内には多くの菌がいます。その中で、本剤が有効な適応菌種は、

ミノサイクリンに感受性がある、アクチノバチラス・アクチノミセテムコミタンス,エイケネラ・コローデンス,カプノサイトファーガ属,プレボテラ属,ポルフィロモナス・ジンジバリス,フソバクテリウム・ヌクレアタムなどに奏功します。

 

主に、歯周組織で、炎症を引き起こす菌に対し、殺菌効果が見込めます。

 

そして、薬の副作用には、一般的には以下のようなものがあります。

① アレルギー反応:全身の皮膚の発赤、かゆみ、呼吸困難が初期症状

② アナフィラキシーショック:鼻水、くしゃみ、目・皮膚のかゆみ、めまい、嘔吐感

③ スティーブンジョンソン症候群:皮膚の水疱・発赤、視力低下、口内炎

 

副作用に関しては、メーカーのサイトを見ると、

「本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していない」

と、記載されています。これは、本剤に限らず、多くの薬剤に明記されている文言で、これをもって、危険薬物だ、と決めつけるのは尚早で、統計学的に、ヒトの人体で副作用が起きるほどの疫学的調査は、母数として多くのデータを取得していない…という事です。

 

ただ、20年間、歯科業界で用いられている事をもって、統計学的な調査は十分考慮されていると考えて差し支えないものと考えています。

 

もちろん、製品化する段階で、事前に小動物実験などで治験を行っている事は確かです。

 

同様に、妊婦、小児に対しても、使用経験が少ないので、安全性を確立していない…と、但し書きが示されています。要するに、まだ解っていない事が多々あるので、注意して使うように…と、注意喚起しているのです。

 

【有効性】

これは、当院で口臭治療に用いている症例を参考に、ご紹介したいと思います。

(データの開示は、患者さんから了解を得て実施しています)

 

例えば、こちらの症例をご覧ください。長期経過観察の一例です。

 

細かい測定値は、見る必要がないですが、棒グラフの高さが、時間経過とともに減少している様子が解ると思います。

 

特に注意してみたいのは、リバウンド傾向です。

 

点線でたどった流れを見ると、確かにリバウンドは起きているのですが、その「戻り幅」が、徐々に小幅になっている事が分かると思います。

本剤も、抗菌薬なので耐性菌に関しては、充分注意しながら用いる必要があります。

患者さんには、日々の連用は避け、リバウンドが出た時だけ、「スポットで」応用するように指示しています。特に、炎症性病変から由来する「硫化水素」の発生に有効な薬剤だと思っています。

 

【操作性】

患者さんの口腔内へ応用する時、薬剤の物性はとても重要です。

 

本剤は、本体とノズルが別体です。開封後、上図のように、ネジ山の所で接合して活用します。先端ノズルは、かなり細く加工してあるので、注射器のように絞り出すと、ニョロニョロと、少量出てきます。

 

この時に、軟膏の物性が、

●水っぽくトロトロでも塗布しにくいですし、

●逆に、硬すぎてカチカチでも操作しにくいですし、

●乾いた感じで、パサパサしていても、患部に対して乗りが悪いです。

 

本剤はその辺がうまく調整されていて、程よい粘り気で、シンナリと目的の場所に塗布できます。これは、臨床的には、とても重要な要件で、長く、広く、歯科臨床に用いられている理由だと思います。

 

これからも、副作用に注意しながら、活用していきたいと考えています。