実は、一日使った使い捨てマスクは…「2度」クサイ!

 

コロナ肺炎が蔓延し、一時期は、使い捨てマスクが市場から消え失せ、どうなる事か…と不安になりましたが、現在は供給が安定しています。

 

口臭を専門にして15年、巷に存在するニオイには敏感になっています。今回は、歯科医師が行うナンチャッテ実験として、使い捨てマスクから出てくるニオイについて、検証を加えてみました。

 

【使い捨てマスクは2度臭う!】

 

●実験1

まず、デフォルトで私の口臭を調べたデータを下記に示します。左図が、ガスクロマトグラフィーで測定した生波形、右図が、測定結果を数値化したものです。

 

左図、生波形の最初に出てくるピークは、「雑ガス」と言って、殆どが呼気中の二酸化炭素である事が多く、臭気を伴わないものです。

 

ガスクロは、さまざまなガス成分が含まれた臭気が、カラムと言うセンサーを通過する過程で選別され、一つ一つのニオイの成分に選別されて行きます。この事により、特定の臭いは、特定の時間軸の場所に反応が現れ、臭気成分を小分けできる機能があります。

 

念の為に、まず試験前の私の口臭を調べておかなければなりません。結果は、ヒト嗅覚で解り始める「認知閾値」以下なので、臨床的には全く問題ないレベルでした。ナイショ話をするくらい近づいて会話をしても、臭いとしては届きません。

(口臭を専門に扱っている私としては、一安心)

 

硫化水素「15ppb」、メチルメルカプタン「1ppb」、ジメチルサルファイド「7ppb」

 

●実験2

次に、一般的な使い捨てマスクを1枚取り出し、マスク表面にシリンジを当てて、マスクそのものの臭気を吸い取り、測定器にかけます。生波形が左、測定値が右です。

 

当院の測定器は、口臭のガス成分を検出して数値化します。

 

もし仮に、口臭以外の別の臭気が含まれていた場合、「生波形上」には、ガス成分のピークが出てきますが、それが、何の臭いに由来するのか?は、同定して数値化する事は出来ません。

左図をご覧ください。生波形上の後半に、何やら別のピークが出ていますね(↓部)。実際にマスクを直接嗅いでみると、酸っぱい様なニオイを感じます。

 

もちろん、未使用の状態なので、ヒトから出てくる本物の口臭は出てきません。測定値は殆ど誤差レベルです。

 

硫化水素「3ppb」、メチルメルカプタン「1ppb」、ジメチルサルファイド「1ppb」

 

実は、使い捨てマスクは、製品化する段階で、殺菌処理をします。その中には、酢酸などを染み込ませて、安全性を確保しています。

 

生波形上に現れた、別のピークは、十中八九、この酢酸を検出しているものと考察します。

私が直接鼻で嗅いでみた官能検査で感じた酸っぱい臭いが、生波形上のピークにも現れている訳です。

 

これが、マスク臭の1番目のニオイの正体です。

 

【重要】

口臭治療を相談に来た方の中で、

「どういった状況の時に、口臭を感じますか?」と、問診をすると、

「仕事中のマスクをしている時に、臭いを感じます」と受け答えする方がいます。

 

続いて、

「それでは、その時に感じた臭いを、言語化してみて下さい」とお願いすると、

「酸っぱい様なニオイを感じます」と言う答えが返ってきます。

 

この場合の患者さんが自覚していた口臭は、ほぼ、間違いなく、自分自身の口臭ではなくて、薬品臭を嗅いでしまっている可能性が高いです。

 

●実験3

休みの日に行った実験なので、同じマスクを使い続けます。3時間ほど使用した後に、再びガスクロで調べてみます。

 

少し使い込んで来たので、ヨレヨレ感が出ています。最初の薬品臭は、私の嗅覚で嗅いでみても少なくなった感じがします。

 

硫化水素「3ppb」、メチルメルカプタン「1ppb」、ジメチルサルファイド「5ppb」

 

左図の生波形上に出ていた、酢酸の成分を疑う臭気は、徐々に減少傾向を示しています。

これは、使用している過程で、酢酸の成分が蒸散し、薄まっていることが伺えます。

 

薬品臭の酸っぱいニオイが、徐々に消えている事を示唆しています。

 

●実験4

最終的に、8時間ほど、連続使用した後に測定したマスク臭を以下に示します。

もう、かなりヨレヨレです。時間経過とともに、もう酢酸臭は完全に消えています。

 

しかしながら、官能検査で臭いを嗅いでみると、マスクからは、金魚鉢臭のような臭いが出てきました。

 

硫化水素「58ppb」、メチルメルカプタン「128ppb」、ジメチルサルファイド「0ppb」

 

本来の口臭を示す、メチルメルカプタンの臭いが、上昇傾向を示していたのです。これは、呼吸をする過程で、唾液や菌類が口から出て、マスクの不織布の繊維に捕らえられ、濃縮された状態で、臭いに変化していることが考察されます。

 

128ppbという値は、ヒト嗅覚で解り始める認知閾値「26ppb」の5倍程度出ているので、キスする位近づいた時に、臭いを感じるレベルです。

 

ちなみに、参考データとして、その時に、私の口から直接採取した呼気からは、それ程強い口臭は発生していませんでした。

 

硫化水素「18ppb」、メチルメルカプタン「4ppb」、ジメチルサルファイド「4ppb」

 

なぜ、こうした変化が起きたか?と言うと、口内から発生する口臭は、それ程発生していないにもかかわらず、マスクの中だけ、ニオイが凝縮されているからです。

 

これが、マスクは、2度臭くなるの正体と考えます。

 

【考察】

たった1回だけの、ナンチャッテ実験では、何も証明したことにはなりませんが、使い捨てのマスクからは、

 

1.使用直後の、酢酸を中心とした、酸っぱい「薬品臭」と

2.1日使用した後に現れる、本物の「濃縮口臭」の

 

2回、別々の臭気を発している事が伺えます。

 

この事から、もし1日中マスクを使う必要があるのであれば、出来れば、午前と午後で、別のマスクに取り換えた方が、濃縮口臭を防ぐ事は出来そうです。

 

もったいないからと言って、連続してマスクを使用すると、普段口臭が出ていない方でも、濃縮口臭が出ているかもしれませんよ。