三峯神社にそびえ立つ、樹齢800年の木について

 

11月の某日、埼玉県の秩父に位置する、「三峯神社」に参拝に行きました。

横浜を朝の6時に出発して、片道3時間の道中です。特に、本殿に至る階段の両脇にそびえたつ、樹齢800年の一対の巨木は、参拝に来たものを圧倒する力強さがあります。800年前と言えば、おおよそ鎌倉時代に相当します。その頃からこの巨木は、人間界を見下ろし、風雪に耐え凛として生きながらえているのです。

三峯神社が、関東屈指のパワースポットと言われる所以です。

 

でも、樹齢で言えば、800年などは、まだまだヒヨッ子レベルで、有名な屋久島の縄文杉は、推定3000年以上と言う事です。世界的にみれば、2万年以上の樹齢の木もあるようです。

 

ただ、この巨木たちですが、これだけのボリュームの木を生き永らえさせるには、相当の栄養分を地面から吸い上げなければ、生きていけない…と思いがちですが、そうでもないのです。

 

実は、木にとっての外壁に相当する「樹皮」の部分は、とっくの昔に「死んでいる」のだそうです。ただ、木としては一体になって存在しているので、強度を保つための「躯体」としての役目は十分に担っています。

人が作った五重塔でも、建造から1000年以上経過した木造建築も現存しています。例え死んだ木材であっても、適切管理すれば、千年単位で維持管理する事は出来るのです。

 

つまり、木造建築の五重塔やツーバイフォー住宅と同じように、外壁を死んでしまった木材が強固に取り囲み、一体構造にする事で、倒れないようにしているのです。樹皮の裂け目は、外に外に成長する過程で、ひび割れた「かさぶた」の様な組織になっています。

 

この事から、「樹皮」には、生命を維持する「力強さ」が秘められている…と言うのが、古来より謳われていました。そうした背景を受けて、この樹皮は、一部で生薬として、立派に役に立っているのです。

 

今回は、樹皮にまつわる生薬の話をしてみましょう。

その前に、木には、便宜的に定義された「高等植物」と「下等植物」と言う分類がある事をご存知でしょうか?もちろん、生物学的な優劣の話では無く、進化の過程で、

 

●高等植物は、体制の発達した植物のこと。一般的に、根・茎・葉として分化した構造を持ち、維管束によって生命活動を行う植物です。広義の意味では、種子植物とシダ植物などを指します。

 

これに対し、

 

●下等植物は、構造が簡単で、それぞれの器官の分化が、あまり発達していない植物の事を指します。一般的には、菌類・地衣類・藻類などが該当します。

 

この高等植物の樹皮は、根が地面から栄養分を吸い上げ、シッカリとした幹を形成し、それが凝縮した形で樹皮になっていくので、栄養分がギュッと封じ込められている効能を有しています。

 

【樹皮由来の生薬】

 

① 赤目柏(アカメガシワ):名前は、春の新芽が赤い色を付けることに由来する。また、別名、菜盛葉(さいもりば)とも称され、樹皮がしっかりして水にも強い事から、食器としても重用されました。樹皮にはベルゲニン、ルチン、タンニンなどを含み、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、痔疾、イボ、腫物などを主治します。

 

② 厚朴(コウボク):モクレン科、ホオノキの樹皮で、精油成分、アルカロイド、リグナン誘導体などを多く含む。

薬理効果は、健胃、鎮痛作用、鎮痙(ちんけい)、沈静、筋弛緩、中枢神経抑制、胃運動促進、腸管運動抑制、抗菌、抗潰瘍などに効果があります。

 

③ 黄柏(オウバク):ミカン科、キハダの樹皮、アルカロイド様成分、苦味成分、ステロイドなどを含み、この生薬は、黄連、黄芩と並び「苦み三兄弟」と言われる位、強い苦みを伴います。特に、「熱」や「湿」を、身体からデトックスする作用があります。特に、目の充血、耳鳴りと関連する、上焦の熱を取り除きます。この事から、健胃・整腸・腸内殺菌を主治し、打ち身、ねんざ、打撲薬にも使用します。

 

④ 桂皮(ケイヒ):クスノキ科、シナモンの樹皮、精油成分、ジテルペノイド、糖類、タンニンを含み、樹皮は枝よりも、身体を温める性質が強いと考えられており、特に身体の中心部にさようします。紅茶にシナモンスティックを添えて飲用する習慣は、とても理にかなっている訳です。これに対し、桂枝は、むしろ体表部を温める作用が強いです。一般的な使い方は、麻黄と併用して、風邪薬や関節炎などに応用します。茯苓(ブクリョウ)や甘草(カンゾウの根)、丹参と合わせて、狭心症など循環器疾患にも重用されます。また、呉茱萸(ゴシュユ)と併用して、寒さから始まる腹痛や月経痛にも使用します。非常に応用範囲の広い生薬です。

 

昔から、日本人には、古い樹木や巨木には、精霊や神様のような、

「目には見えない尊い何者か」

宿っていると考える風習がありました。その為に、鎮守の森として、その土地の人々を守ってくれていると考え、お供えものをして手厚く祀ったのです。そして、樹齢の長い樹は、「ご神木」と呼ばれるようになり、信仰の対象として崇められました。そして、その周りに祠を立てたり、神社の神様を祀ったりしてきました。

 

実際に樹齢の長い樹の前に立つと、本当に心が洗われる気持ちになり、生命パワーを貰った感じがするから不思議です。だから、その樹皮に生薬としての薬効が備わっているのも、とても理にかなっている訳です。

 

神社巡りに加えて、これからは、巨木めぐりが新たに加わりそうです。