栄枯盛衰…私の2つの母校の行く末

 

【東京歯科大学の場合】

2020年12月、私にとって、コロナの影響と同じくらい衝撃のニュースが突然舞い込みました。

 

「東京歯科大学は、慶応大学に吸収合併されて…慶応大学歯学部に移行する」と言うものです。

 

1946年に創設されましたから、74年の歴史があり、日本における歯科大学では、最も古い歴史があります。私立の単科大学なので、同窓の結束は固く、私が学生時代だった時の同級生を見ても、親が同校出身である方が多く、良い意味での同窓意識、皆で助け合うという連帯感がありました。

 

最も古い歯科大学なので、歯科領域における学術用語は、全て我が東京歯科大学が「名付け親」になっている背景があり、大先輩の先生の業績には、敬意を払っていました。

一例をあげると、歯ぐきは、歯齦(しぎん)、歯の表面構造は、エナメル質など、ひとつひとつの名前にもチャンとした由来があり、学生の授業の際も、教員が歴史的な背景も踏まえ、私達学生に熱意を持って説明してくださいました。

 

また、手前味噌にはなりますが、学業も割と優秀で、私立の歯科大学の中では、歯科医師国家試験の合格率も、常にトップ争いをしており、学生同士、助け合って勉学に励んでいます。

 

実は、東京歯科大学が慶応大学の傘下に入る…と言う噂は、私が学生時代(40年前)から存在していました。例えば、東京歯科大学は、市川総合病院なども運営しており、歯科以外の医療も行っています。特に、同病院は不妊治療で有名で、度々マスコミで取り上げられる事もありました。

 

そこに従事する医学部の先生は、何故か、慶応大学医学部から出向してくる方が多く、昔から密接な連携を取っていた事が伺えます。

 

ただ、それでも、我が東京歯科大学は、未来永劫、存続していく…と思っていましたが、とうとうなくなってしまう運命にあるようです。

 

同窓としては、非常に残念です。

 

何かの機会に、「どちらのご出身ですか?」と聞かれた時に、「東京歯科大学です」と申し上げれば、「おおっ」と言う感じでしたが、あと10年もすれば、皆の記憶から忘れ去られ、国立大学の「東京医科歯科大学なのですね」と言う感じで受け取られてしまい、別の意味で、「おおっ凄い」と思ってくれるようになってしまう事が、ナントも寂しい思いです。

 

これからは、どの様に自己紹介したら良いのでしょう?

まさか、「慶応大学歯学部です」とは言えないしなぁ。

 

東京歯科大学の図書館には、歯科医学の始祖、千脇森之助先生の蔵書などもたくさん所蔵しています。歴史的価値も高い書物類です。過去の歴史を振り返ってみた場合、中国における文化大革命の頃は、先人の業績が記された書物類が、次々と焼き払われました。

 

まさか、慶応大学の先生は、そんな事はしないと思いますが、「こんな物はもう不要なので、全て処分してください」と言われたら、泣く泣く廃棄しなければなりません。同窓としては、とても複雑な心境です。

 

【東京衛生学園の場合】

そんな東京歯科大学を卒業し、歯科医業に携わってきましたが、39歳の時に、鍼灸師の国家資格を取得するために、一念発起して東京衛生学園(後藤学園)の夜間専門学校に通い始め、鍼灸学の研鑽も積みました。

 

実は、こちらの専門学校にも色々ありそうな気配です。12月某日、1通の手紙が舞い込みました。

 

その文書には、他言は無用…などの但し書きは特になかったので、オープンにしても良いと考え、ここに開示したいと考えています。

 

その前に、私が鍼灸の夜間専門学校を受験した20年前は、独立開業が出来るなどが受験生に響き、とても競争が激しく、倍率も5倍以上もありました。受験科目も、国語の筆記試験に加えて、面接、口頭試問もありました。

 

私は、久しぶりの受験だったので、鍼灸学校対策予備校にも事前に通い、国語の受験勉強を開始しました。過去問の傾向と対策、面接の練習など、結構、力が入った内容でした。

 

それでも、実は、私は1次試験が不合格でした。

 

中学・高校受験、歯科大学受験、国家試験など、受験勉強は、全て一発で突破してきた中で、初めて落第したのです。ただ、どうしても鍼灸の勉強がしたくって、改めて、狭き門の2次試験にチャレンジした所、何とか合格を果たし、歯科医業の傍ら、夜間の学生生活を3年間、送る事が出来るようになりました。

 

入学してから解ったのですが、決して裏口、云々という話ではなく、単科大学や専門学校には、一定の割合で、「縁故枠」というものがあり、一見様で飛び込み受験しても、なかなか突破できない雰囲気があるのは確かなようです。その為に、受験の際にも、

 

「何故、鍼灸の勉強がしたいのか?その資格をどのように社会に還元したいのか?」

 

という点については、しつこく質問されました。専門職は、少しだけ閉鎖的な一面もあるのです。

 

そんな背景を受けて、私に届いた1通の手紙には、こんな感じの事が案内されていました。

既に1次試験は終わったようです。その上で、2次試験、3次試験、4次試験までの日程が記載されています。

 

しかも、受験科目は、400字の作文と面接だけです。

 

同窓のご子息・ご令嬢を広く募集します…と言う意味合いの案内状でした。文面には正面切って明文化されてはいませんでしたが、同窓生の子供であれば、何となく少しの配慮をした上で、合格の道も考えますよ…と言う雰囲気を感じさせる案内です。

 

現在は、推薦入学のような一面を感じました。

 

【考察】

東京歯科大学も東京衛生学園も、コロナの影響を受けて、恐らく学生が集まらないのだと思います。特に、施術を通じて患者さんと近い距離で接する機会が多い職業は、受験生から敬遠されているのだと思います。

 

受験生は、社会の情勢に敏感だから、そりゃぁ…東歯も無くなる訳だよなぁ…と、思うに至りました。

 

聞く所によると、医学系の大学のカリキュラムは、実習や実験などの授業は、現在、殆ど行わないか、実習の動画を見るだけで、実際に自分の手を動かして行う授業はやっていない所もあるそうです。座学もテレワークが中心で、登校しなくても問題ない体制ができつつあります。友人同士の「楽しいキャンパスライフ」は過去のものになりました。

 

もし、学校側が、「もう、このやり方でも、充分やって行けるじゃん!」と、悟ってしまえば、ネットを中心としたテレワーク授業が定着してしまい、昔の学校のスタイルに戻る事は無くなってしまうでしょう。

 

実際に保護者会をすると、PTAの中には「現状のカリキュラムで、昔と同じ授業料を徴取するのは、おかしいのではないですか?」と言う意見も出ているようで、技術が問われる、歯科医業や鍼灸のような学問の場合、これから多くの問題を抱えそうです。

 

一時期、社会人の中には、出来の悪い社員に向かって「お前たちは、ゆとり教育の世代だからなぁ…」と言う評価が下された時代がありました。恐らく近い将来「お前たちは、コロナ世代だから、何にも実技が出来ないじゃないか!」と言われる日が来るのかと思うと、今の学生さんには同情を禁じえません。

 

全ては、少子化とコロナの影響だと思います。

 

これから、東京歯科大学に限らず、大学の存続をかけて、統廃合はバンバン出てくるのではないか?と、予想します。恐らく、東京歯科大学の終焉は、これからの学校教育の変容の終わりの始まりなのだと思います。