コロナ感染で…味を感じない?『味覚異常の話』

 

新型コロナ肺炎に感染した方の話の中で、「味覚」と「嗅覚」が、分かりにくくなった…と言う話を良く効きますが、それは、何故なのでしょう?

今回は、「味覚異常」の事について、歯科医師的考察を加えておきましょう。

真夏に食べる「かき氷」は、一服の清涼感をもたらしますが、既に、都市伝説になっているように、イチゴ味でもメロン味でも、成分上、味の違いはないそうです。

 

違うのは、見た目の色合いと、香料による風味だけで、何となくイチゴっぽく感じているだけなのです。

 

「味」は、その物の持っている食材の味以外に、臭い、見た目の色、食感、喉ごしなどの情報を、脳内で総合的に処理して、過去の記憶のデーターベースとも照合しながら、「味」として、認識しているのです。

 

という事は、例えば、とんこつラーメンを食べる前から、既に、脳内では「よだれ」が出始め、このラーメンは、こんな味がするであろう…と言う予測を立てながら、味わっているのです。

 

実際の味覚は、舌の上に存在する、味を甘受する受容器として、『味蕾』(みらい)という細胞が存在しています。その細胞は、1万個以上も存在しており、舌の細胞以外にも、口蓋にもわずかに存在しています。

そして、実は口内の味蕾は、常に細胞のターンオーバーを繰り返し、7~10日間隔で、新しい細胞に入れ替わっています。

味の種類は、

甘味、塩味、酸っぱい味、苦い味に加えて、近年では、うまみ味も加えた、5種類の味を区別する受容体をもっています。

 

ただ、味覚は加齢、性差、食の生活習慣、ストレス、唾液分泌量でも、大きく左右され、非常に個人差があります。一般的に、コロナ感染以外でも、以下の原因で、味覚異常は起きてきます。

 

① 舌炎などの粘膜疾患(カンジダ菌、ウイルス感染)

② 鉄・亜鉛などのミネラル不足(味蕾細胞の元気が無くなります)

③ 疾患による神経異常(頭頚部の外傷、脳腫瘍、中耳炎、副鼻腔炎、顔面神経麻痺)

④ 口内乾燥(抗コリン作用による薬の副反応、過緊張、加齢、シェーグレン症候群)

⑤ その他の疾病に由来(消化器系疾患、肝障害、糖尿病、妊娠)

 

実は、私が専門に扱っている「口臭」でも、口臭の発生と同時に、味覚異常を訴える方がいます。問診をしていくと、その多くは、

●舌磨きのやり過ぎ

●睡眠薬、精神安定剤服用による抗コリン作用による唾液減少

●副鼻腔炎による炎症

●加齢変化

による原因が、全体の8割を占めているようです。

 

実は、亜鉛や鉄は飲食物に含まれていますが、日本人は、亜鉛不足になりがちです。亜鉛は、海のミルクの「牡蠣」に豊富に含まれているので、味音痴の方は、積極的に食べたい所です。また、専用のサプリメントも売っているので、上手く使い分けると良いでしょう。

また、歯科領域で考えると、「カンジダ菌」による粘膜疾患でも、味覚異常を起こすときがあります。あまり濃厚なオーラルセックスをしてしまうと、生殖器から感染する場合もあります。抗真菌薬が良く効くので、処方が必要になってきます。

 

最後に、新型コロナ感染症でも、味覚異常が初期症状で起きると言われています。

 

この場合の味覚障害は、口腔内による変化と言うよりは、嗅覚の障害の方が影響を受けているという報告が上がっています。

ここで怖いのは、ウィルスが嗅覚神経に寄生し、そこで炎症が起きた事によって、味覚障害が発症した場合です。こうした場合は、コロナ感染が陰性になっても、味覚障害だけはしばらく後遺症として残る可能性もあります。さらに、一部の報告では、脳内にまでウィルスが侵入した報告もあります。そこまで影響が及ぶと、不可逆性の障害を残す懸念も存在します。

例えば、微妙な味付けを求められる、調理師さんや、ワインの臭いを嗅ぎ分ける、ソムリエの方などは、仕事に支障も出てきてしまう怖れもあります。

 

もちろん、口臭治療を専門にしている当院も、ニオイが分からなくなったら、仕事になりません。感染には十分注意して、仕事をしていきたいと考えています。