革細工の財布を買った…実は、漢方とも深い関係

 

常日頃、ファッションには全く無頓着な私は、自分が着る服に、子供の頃から全く関心がなく、シティボーイとは無縁の青春時代を経て、いつの間にか、還暦まで来てしまいました。

 

「院長なんだから、一個くらい、いい仕立てのスーツでも買ったら!」

 

と言うカミさんの指摘もなんのその。何10万円もするオーダーメイドのスーツと、吊るしで売っている既製服との間に、大きな付加価値の差を見出す事は出来ず、衣服にお金をかける事はありませんでした。

 

たまに、カミさんに連れられて、イヤイヤ服を買いに行きますが、何を買うか?は、ものの5分で決まってしまいます。

 

この傾向は、衣服に留まらず、時計や財布、革靴に至るまでブレが無く、リーズナブルな物を定期的に買い替える…と言う日常を過ごしてきました。

 

私のこれまでのライフスタイルは、高級なブランド品とは縁遠い生活でした。

 

普段、手に持つ財布も、2000~3000円代の人工皮革の物を愛用し、ボロボロになったら新調する事を繰り返してきました。そんな私が、一生で、初めて贅沢気分を味わうために、16,500円の革細工を買ってしまいました。もちろん、世の中には、3万円、5万円、10万円の財布などは、ザラに売っています。でも私の中では、16,500円の財布は、今まで60年間、生きてきた中で、間違いなく、最も高価な財布になりました。

 

なぜ、自分にとっては、身の丈に合わない高価な財布(あくまでも自分の価値観の中で)を買ってしまったのか?

それは、革細工は…「エイジング」と言う変化がある事を知ってしまったからです。

 

エイジングとは、天然素材の革製品は、使い込んでいく内に、使う人の手や体型に馴染み、1年ごとに、色・形に変化が起き、使い始めた頃とは異なる変化が楽しめる、革特有の風合いです。

 

還暦を過ぎて、いつ、あの世に行ってもおかしくない年代に差し掛かり、もしかしたら、5年後は、この世にいないかもしれない…と、考えた時、

 

「今、革細工を買っておかないと、エイジングの変化を見る事が出来ない…かもしれない」

 

と思った時に、やはり、少し高めの財布を買って、財布と一緒に年を重ねていきたいなぁ…と、思うに至りました。

 

色々探した中で、今回は村上雄一郎氏が作る「エムピウ」と言う工房の財布を買ってみました。

https://m-piu.com/

 

同氏は、元建築士で、建築デザイナーとして働いていたという異色の経歴の持ち主です。2001年に立ち上げた工房は、イタリア伝統の製法で作られており、シンプルで機能的な革細工の小物を生み出しています。

 

ブランド名の「エムピウ」とは、「m+」と書きます。村上さんのイニシャルの「m」に加えて、年月と共に、エイジングで革が徐々に変化していく「プラスアルファ」の部分の思いを込めて、「m+」になりました。

 

私が、ビビッと来たのは、革細工職人でありながら、建築士と言う肩書です。手前味噌ですが、私も、歯科医師でありながら、鍼灸師の国家資格を有し、漢方処方を専門にしてきました。

 

自分の専門分野を、全く別の新しい分野に注入すると、今までにない「化学反応」が起きる事は、私も実感しています。

 

そんな所に魅力を感じ、購入してみた次第です。

通販で届いた箱を開ける時のドキドキした心境は、子供の頃に戻ったようです。今回は、金運が溜まる様に、黄色い色味の「moon色」を選び、革の質感は、手に馴染むシボが入った風合いにしました。

 

これから、数年間、お世話になる財布です。大事にエイジングの変化を楽しみたいと思います。

 

所で、人類が古来より使ってきた革細工は、本来は、牛や豚の「皮」をはいで使います。このままにしておくと、生の皮は腐ってしまうので、ヒトが使えるように「なめす処理」をして、

動物の「皮」は、「革」へと変化していきます。

その頑丈な革をベースにして、革が化けて、「靴」になり、包み込んで、「鞄」になります。

 

そして、革を柔らかくする…と書いて、「鞣す」(なめす)になります。

 

この鞣しには、植物性と化学性の物質を浸透させる、2種類の工法があるのですが、

実は、植物性のものには、漢方薬と同じように、「タンニン」の成分が用いられているのです。

 

生薬から見たタンニンには、植物界に広く存在するポリフェノールの一種で、茶葉、ベリー系果実、ブドウ(ワイン)など、色の濃いものに多く含有します。

 

タンニンの薬理作用は、人体の組織を引き締める「収れん作用」を持ちます。

 

生薬を煎じると、独特の強い渋みを感じる事が特徴です。また、皮膚や肌に塗布すると、その収れん効果により、毛穴を、キュッと引き締める作用を持ちます。また、強い抗酸化作用がある事から、動脈硬化を防ぎ、生活習慣病予防にも効能があります。

 

このタンニンが、革を鞣すときにも使われているとは、知りませんでした。

 

恐らく、その収れん作用により、皮をギュッと引き締めて頑丈にするだけでなく、抗酸化作用により、紫外線や温度変化にも強い素材に変化させるのでしょう。先人の知恵には恐れ入ります。

特に、皮の鞣しには、アカシアの葉から抽出したタンニンを使うようです。

 

アカシアは、観賞用としても用いられ、観賞用のリースにすると、とてもキレイです。

 

所で、このタンニンの「渋み」は、厳密にいうと…味覚ではないそうです。

 

先月のブログで、味覚の5分類をご案内しました。苦みは…立派な味覚ですが、渋みは、以下の機序によって、お口の中で違和感を呈しているようです。

 

タンニンは、緑茶や紅茶、ワインなどにも含まれるカテキンの一種です。そして、ポリフェノール類の中でも、ガン・認知症予防に効果が期待できる成分です。漢方薬の煎じ液の中にも豊富に含まれています。

このタンニン、健康に良い成分ではありますが、一つの問題点は、鉄分の吸収を阻害してしまう点です。例えば普段、貧血気味の方がタンニンを過剰摂取すると、貧血を助長してしまう可能性があります。

 

そして、タンニンが口内に入ると、舌や口腔粘膜に存在する、「ムチン」と言うタンパク質と結合して変性・除去を引き起こしてしまうのです。ムチンは、ウナギの体表面にも存在し、ヌメヌメと付着し、粘膜の保護の役目があります。

 

タンニンは、このムチンと結合して、収れん効果と共に、口内からムチンをはぎ取ってしまいます。この現象は、ワインのテイスティングをして、飲み込まずに、吐き出す事があると思います。この時に、妙に、糸が引くように、ワインと共に痰の様な粘ついた物も一緒に出てくる事があります。これが、ムチンが剥がれ出た証拠になります。

 

この事から、「渋み」の感じは、味覚と言うよりは、むしろ、「触覚」に近い感覚なのです。

 

ワインのソムリエの方が、テイスティングの時に、色々な言葉の表現で、この渋みを表現します。例えば、「引き締まった」「シルキーな滑らかさ」「ビロードのような深み」などです。これらは、ムチンが粘膜から剥がれ落ちて、舌先でそこに触れた時の感覚、触覚、違和感を、言語化している訳です。

 

そう言えば、煎じ抽出漢方薬を飲んだ時も、何となく、歯と歯とのぶつかり合いが、普段よりもギシギシとぶつかった感じがして、口内の滑りが悪い事があります。これも同様に、渋みを感じているからなのです。

 

このタンニンの成分によって、動物の皮も引き締まり、余分なヌメリが除去され、長年使える「革」に変化していくのだと思うと、植物の成分は、私達の社会生活に、大いに寄与している事が解ります。

 

今回購入した皮財布は、大切に使って、私の老後の変化と共に、その経年によるエイジングを楽しみたいと考えています。