加水分解の不思議な特性について

 

私達の身の周りの知らない所で、色々な化学変化が起きています。今回は、「加水分解」について、改めて考察しておきましょう。

 

そもそも、加水分解とは…なんぞや?

 

ある種の化学物質が、水と反応して、分子間の鎖が切れて、分解反応を起こす現象のことです。

例えば、スニーカーのゴム底には、ポリウレタンなどが用いられており、こうした成分は、空気中の水分を吸収すると、「加水分解」が起きてしまい、数年経過するとソールが、ボソボソになってしまいます。

 

 

身の周りには、水分に弱い性質の物質が意外と多いのです。

 

当たり前のように存在している水ですが、知らない所で、加水分解と言う形で、私達の生活の妨げになったり、役に立ったりしています。

 

【身体の中の加水分解】

消化管では、食べた飲食物を吸収して、身体に必要なエネルギーに変換するため、食べた栄養素を分解して、より小さな分子にする「加水分解反応」が行われています。当然、加水分解反応を起こすためには、水分の補給が必要です。さらに、加水分解された成分は、水に溶けて、吸収、運搬、排泄までなされます。加水分解によって、人体に吸収できる成分になって、生命活動が営まれています。

 

【歯科における加水分解】

私の専門分野である歯科領域でも、加水分解は応用されています。例えば、患者さんにセラミックでできたキレイな歯を装着しようとします。一般的には、接着剤を使いますが、数十年前の歯科業界には、「合着」はできても、本当に化学的に「接着」する事は難しい背景がありました。なぜならば、

●セラミックは無機材料

●レジン(樹脂の一つ)系接着剤は有機物

なので、有機物と無機物は、直接的にはくっ付き合わない特性があるからです。 

 

 

その為に、無機物とも良く付いて、しかも有機物とも相性の良い、間を取り持ってくれる「介在物」が必要になりました。

 

この両者を結びつける化合物を、「シランカップリング剤」と言います。

 

シランカップリング剤は、シリカを主成分とするセラミックス素材の接着には、必須の工程です。この物質が見つかった事で、歯科領域の修復は、飛躍的な進歩を遂げました。

歯科分野では、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(γ –MPTSと略)と言うものが使われています。 γ-MPTSは、無機物質の材料に接着性させるためには、酸や加熱で、メトキシ基を切断する必要があります。この切断に、「加水分解」が重要な働きをしています。そして、ケイ素酸化物との間に反応が生じシロキサン結合を形成し、両者をカップリングさせる事が可能になる訳です。

 

【食品の加水分解】

例えば、タンパク質を加水分解すると、アミノ酸が生成されると同時に、アミノ酸の間のペプチド結合が切れて、アミノ酸が数個つながったペプチド体になります。実は、加水分解された成分には、うま味やコクを持つ成分があります。その中でも、グルタミン酸は、加水分解によって生み出された、うま味成分を持つアミノ酸です。

 

タンパク質の加水分解物は、食材の味を引き立てる働きがある訳です。

 

そう考えると、「水」はあまりにも身近にあり過ぎて、それが持つ特性が注目される事は無いですが、色々な不思議な性質があるのです。

所で、暦で見ると6月は、「水無月」(みなづき)と言われています。梅雨時に入り、水が豊富になる季節に、「水が無い月」と呼称する事に違和感があります。本来の語源は、「水の月」の「の」の部分が、「ない」に傾いて、水無月に変化したものらしいです。

 

①水は、態を変える

外気温が「0℃」になれば、水は氷に変化し、「100℃」になれば、沸騰して水蒸気になります。この様な温度変化だけで、固体→液体→気体の三相に変化する物質は、化学会にはほとんど存在しません。

 

②氷になると、水に浮く

殆ど物質は、加熱で体積は増えて膨張し、冷却すると縮んで収縮します。所が、水の場合は、4℃以下になると、何故か、全く逆の様相を呈するのです。所が、徐々に水温を下げて、4℃以下になると、全く逆の様相を示します。水は、4℃を境に少しずつ膨張しはじめ、0℃になった瞬間、一気に10%も体積が増加します。これは、氷になると、分子間の隙間が乖離するからなのですが、なぜ、そうなるのかは、理論的には説明がついているのですが、他の物質にはあまり見かけない、不思議な特性です。

 

③結合水になると、-40℃でも凍らない

0℃になって凍るみずを、「自由水」と言うのに対し、他の物質と結合する事によって、凍りにくくなる水の事を「結合水」と言います。これは、生命活動を営んでいく上で、圃場に重要な仕組みで、生き物は、人体を構成する蛋白質の周囲に、多くの結合水を抱えています。

極寒の地でも、人体が凍り付かないのは、結合水として存在しているからです。また、逆に炎天下で脱水状態に傾いても、自由水だけを失っている内は、人体は持ちこたえていきますが、結合水まで失うようになると、一気に熱中症になってしまいます。

 

普段から、水の不思議な特性に感謝の心を持ちながら、生活をしていきたいですね。