ゴキブリは嫌だが、役に立つ(逃げ恥風)

 

私達にとって、見るのも嫌な「ゴキブリ」ですが、実は、こちらも立派な生薬として活用されています。中国では、2000年以上前に、現代では不可能と思えるような、色々な食材を食べてみては、そこからもたらされる身体の反応を見て、食材が持つ薬理効果を検証してきました。

 

東洋医学を標榜するものにとって、バイブルともいえる医学書として、『神農本草経』(しんのうほんぞうきょう)があります。本書の中で、なんと、ゴキブリも食べてみる事で、その薬効を検証しているのです。

 

本書の中で、ゴキブリは「䗪虫」(しゃちゅう)という生薬名で記載されています。

 

 

ゴキブリといっても、実は䗪虫には、「羽がありません」その中でも、サツマゴキブリ・チュウゴクゴキブリが用いられていたようです。このゴキブリは、主に中国・インドネシアに広く生息していますが、近年、日本でも生息が確認され、特に四国・九州地方でジワジワと勢力を伸ばしつつあります。

 

薬理効果としては、ドロドロ血体質である「瘀血」(おけつ)を、サラサラ血に導く効果や、解毒作用・腫物を取り去る効能も見込めます。

 

 

本家の中国には、医薬品の規格を定める専門書として『中華人民共和国薬典』が存在しています。その中に、サツマゴキブリを使った中成薬の記載がなされています。

中成薬は、日本でいう所の漢方薬に相当します。つまり、効能が確認された国家のお墨付きを得ている生薬成分なのです。

 

そういう観点で見ると、虫に由来する生薬は、まだまだ存在します。

 

例えば、

●水蛭(すいてつ)

文字通り、ヒトに吸い付いて血を吸う「ヒル」の事です。ヒルは、血を吸う時に、血液を吸いやすくするために、自分の唾液腺に、抗凝血・抗血栓の作用がある成分を分泌させます。この血液凝固抑制と溶血作用を持つことから、ドロドロ血を改善する生薬として用いられています。主に、生理不順、打撲による打ち身、脳卒中などを主治します。

 

 

●虻虫(ぼうちゅう)

こちらも読んで字のごとく、「アブ」の事です。吸血動物には、大なり小なり、サラサラ血効果が見込めます。アブの場合は、特に婦人科疾患として、生理不順の他に、生理痛、生理前症候群に効能が見込め、食べ過ぎによる胃もたれ、ゲップ・喉のつかえ感(梅核気)も主治します。ただ、その強い破血効果により、妊娠初期には禁忌です。逆に、強姦などで、望まない妊娠の可能性がある場合や、流産の時の堕胎としても重用されたようです。

 

 

●全蝎(ぜんかつ)

こちらは、「サソリ」の事です。毒を持つマムシやムカデと同じように、用量を守って使えば、微量の毒素は、薬にも活用できるのです。欧州では昔広く用いられ、その適用は膀胱結石、各種の咬毒、黄疸、痛風、炎症、伝染病の治療、外用として坐骨神経痛などであった。

 

サソリ毒は、蛋白質で構成されており、麻酔毒の作用があります。極度の興奮・痙攣した状態の時に、投与すると、痙攣抑制・鎮痙作用が見込めます。サソリ毒は血管を収縮させ、心臓の働きを亢進させることから、血圧上昇作用があります。総じて、サソリ毒は、痙攣、振戦、震え、運動麻痺、半身不随、顔面神経麻痺、めまいなどを主治します。加えて、鎮痙作用も見込める事から、卒倒、ひきつけ、破傷風にも効能があり、鎮痛作用もある事から、関節痛、頭痛にも応用が可能です。

 

 

●蝉退(せんたい)

これは、セミ科のスジアカクマゼミの幼虫の抜け殻を乾燥したものです。真夏の暑い時期に、長年過ごした地中から抜け出し、酷暑降り注ぐ時に脱皮したその抜け殻には、身体をクールダウンさせる効能があるのです。

もしかしたら、セミの表皮には、厳しい夏を乗り切るために、熱を清める作用が備わっているのかもしれません。効能は、散風熱、透疹、痒み止めがあり、総じて、風邪、高熱疾患、喉の腫れに用いられます。 

 

 

動物性生薬は、葉っぱ系の生薬よりも切れ味が良い反面、使い方を誤ると、大きな副反応も出てしまいます。用法用量を正しく守って、使い分ける必要があります。