私の日常臨床は、口臭で悩む患者さんへ、最適な漢方薬を処方する事です。
それぞれの生薬の成分は、人体にとっては無害でも、実は生き物が変われば、要注意なものも散見されます。
今回は、ペットには、特に注意しなければならない生薬の話です。
コロナ肺炎の影響を受けて、自宅で自粛生活する機会が増えました。そんな我慢の日常生活で欠かせないのが、
ペットとの癒しのひと時です。
また、自宅で飼えない人向けに、ネコと触れ合う「猫カフェ」なども繁盛しています。
その中で、「ハッカ油」を染み込ませたマスクの方は、ネコへの健康被害が出る恐れがあるため「入店お断り」を標榜する店舗も出てきています。
ハッカ油は、ペパーミントの事で、生薬名もそのものズバリ、「薄荷」です。
生薬の中でも、やや高価な部類に属します。
昭和初期の頃は、北海道の北見に「ホクレン北見薄荷工場」が建設され、当時の薄荷生産量は、世界一の規模でした。
薄荷の需要の高まりに呼応するように、世界経済を左右する所まで栄華を誇りました。
まるで、ビットコインのように、薄荷の消費増が、仮想通貨のように取引されていた訳です。
ただ、合成ミントの台頭、他の諸国でも栽培が始まると、徐々に衰退し、現在は記念館が残る程になってしまいました。
【薄荷の効能】
薄荷は、独特の風味と清涼感があり、単味で摂取しても、解熱・鎮痛、健胃作用があります。風邪などの発熱性疾患に伴う、
頭痛、のど痛、腹部膨満感などを主治します。
漢方薬としては、加味逍遥散、荊芥連翹湯、防風通聖散などに配合されています。
また、虫刺されによる痒みや腫れにも奏功し、刺された患部に、精油を塗り込むだけで、症状が和らぎます。
加えて、その清涼感と心地よい香りから、歯みがき粉、菓子類(ガム、飴など)、清涼飲料にも重用されています。
この薄荷が、実は、猫にとっては大敵なのです。
●ヒトと共に生活するようになり、「ネコまんま」も食べるようになって、一見、雑食性ですが、実はネコは、
元々は犬よりも「肉食性」でした。
●この事から、植物由来の成分は、ネコの体内で、上手く代謝・分解する事が難しく、特に精油成分が肝臓に負担をかけてしまいます。
●犬も肉食性ですが、猫ほどではないので、ハッカは大量摂取でなければ、危険ではないです。
●猫は、植物性の成分が肝臓に徐々に蓄積されると、肝炎を誘発する恐れがあり、最悪の場合、死に至るケースもあります。
この事から、に精油成分を多く含む、その他の生薬である、桂皮、細辛、丁子、陳皮、蒼朮、白朮、山椒なども、
ネコには全てダメそうです。
特に薄荷は、揮発性が高く、マスクなどに染み込んだ成分でも、空気中に蒸散し、目に見えない形で、
ネコが吸い込んでしまう危険性があります。ごく微量でも、症状が出てしまうので厄介です。
家族同然のペットですが、情が移るにつれて、擬人化しがちです。ただ、同じ哺乳類であっても、人間とは生態が異なるのだ…と心得て、正しく付き合っていきたいものです。