「耳石」と東洋医学

 

私とカミさんは、34歳の時に結婚をしました。私は3月生まれで、カミさんは4月生まれなので、たった20日ほど生まれた日が違うだけで、カミさんの方が、1学年上になります。

 

25年近く連れ添っていますが、この事が、全ての夫婦関係に影響を与えています。

 

その為に、カミさんは常に「先輩風を吹かす」雰囲気で、マウントを取ってきます。それでうまく収まるものなら…と言う感じで、私も「上級生」の意見を良く聞き入れます。お互いの立ち位置をわきまえながら、日々、仲良く生活をしています。

 

そんな還暦を過ぎたカミさんですが、最近になって、

「めまいがする」

「立っていられない」

「何だか、船酔いになった気分がする」

と、訴える事が多くなり、日曜日とかは、横になって休むようになりました。

 

 

脳の病気だと厄介なので、いろいろ検査をしても異常は見つかりません。

自律神経失調症などの病名が付くばかりです。

 

その後、念の為に耳鼻科を受診すると、もしかしたら「耳石」かもしれない…と言う事で、しばらく様子を見る事になりました。

良性発作性頭位めまい症は、よくみられる「めまい」のひとつです。

 

めまいを引き起こすことで有名なメニエール病と異なり、耳石は、聴力の低下を伴わない所が鑑別点になります。特に、回転性のめまいを伴うと「良性発作性頭位めまい症」と診断されることが多いようです。

 

ヒトの身体は、平衡感覚、加速度感覚を得る時に、内耳の「三半規管」の中を流れるリンパ液が、動いたり、片方に流れたりします。その動きを、細かい繊毛が捕らえる事で、自分の立ち位置を把握していきます。

 

このリンパ液の還流の中に、石が転がり落ちると、嘔吐感、めまいを誘発するのです。

 

安静にしていれば、1分程度で元に戻る事が多く、起床時・就寝動作・寝返りをうった時、うなずき動作、横に振り向いたときなどで発症します。

 

【耳石と漢方薬】

耳石による、良性発作性頭位めまい症の原因は、東洋医学で考えると、「水の停滞」、「気血の不足」、「神経の興奮」の3つが上げられます。

一方、西洋医学の対処法は、①頭を動かして耳石の排泄を誘導、②抗めまい薬の処方、③内耳のリンパ液の循環を改善する薬の処方、④船酔い止めの処方を選択する事が多いです。

 

●漢方による対処法

①  水の巡りが滞る『痰濁』(たんだく)由来のめまい

よく、健康常識でドロドロ血に注意…などと謳っていますが、実は、「ドロドロ体液」と言う概念が、東洋医学に存在します。それが、水分代謝に滞りが生じ、体液に粘り気が出てくると、血中にも「痰濁」と言う病理産物が溶け出します。

この痰濁は、本来ツルツル・スベスベしていなければならない身体の部分に取り付いてきます。

身体の中の部位では、関節、胃粘膜、腸管壁、肌のきめ、目、倦怠感、そして、私が専門の口臭や、口の粘着き、分厚い舌苔などに、一斉に不具合が出てくるのです。

普段から、胃もたれ・便秘、関節の渋り、暴飲暴食、脂っこい食事を好むなどの随伴症状がある方は、痰濁を抱えやすいので、注意が必要です。

漢方薬では、去痰作用のあるものを選んでいくので、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、竹如温胆湯(ちくじょうんたんとう)などを処方します。

 

②  気血のエネルギーが不足して、脳へ栄養が届かないことによるめまい

成人女性で、生理を伴う場合、どうしても、気と血が不足気味になります。すると、脳へも充分な栄養が届かなくなり、ボーっとしためまいが出やすくなります。

 

この場合は、日頃から、疲れやすい、健忘、やる気が出ない、不眠、寝汗、食欲が出ない、顔色が優れない、髪の毛がパサつく、声に力がないなどの症状が随伴します。

気血不足の方は、外的要因に左右されやすいのが特徴で、天候の変化を、身体がもろに受けやすくなってしまいます。特に、急激な天気の変化は要注意で、ゲリラ豪雨、低気圧の接近、台風、梅雨どきのジメジメ感、猛暑、極寒の時期などに症状が悪化する傾向にあります。

漢方薬処方では、加味帰脾湯(かみきひとう)、女神散(にょしんさん)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)などを用います。

普段から、安静を保ち、胃腸の調子を整え、元気を養うのが、賢い養生法です。

 

③  神経が過緊張になる『肝陽上亢』(かんようじょうこう)によるめまい

ストレス・睡眠不足・多忙・家庭不和などが継続すると、精神が休まる暇が無く、常に神経が興奮した状態に傾きます。すると、めまい、怒りっぽい、赤ら顔、赤目、頭痛、高血圧、不眠が現れ、歯科領域では、口渇、口の中で変な味がする、口が苦いなどの症状を訴えるのが特徴です。

 

肝陽上亢は、いきなり、「肝陽」が上昇するのではなく、まず、肝の陰液不足のために、相対的に肝陽が亢進してくるのが特徴です。すなわち、肝陰虚→肝腎陰虚→陰虚火旺に始まり、結果として、肝陽が上昇してくるのです。この陰液不足は、身体に必要な潤い感なので、お風呂のお湯が足りない事による「空焚き状態」に傾くため、「内熱」が生じるのです。

お風呂のお湯の温度分布は、上に熱感が集まる傾向にあるので、上半身の頭部に肝風内動が起きて、めまいが出やすいのです。

脳卒中は、別名「中風」→風に当たるとも言います。この体質によるめまいは、季節の変わり目として、春一番、空っ風、台風など、風が強く吹く時に、脳の中が風にさらされて、突発的にめまいを感じる所が特徴です。めまいで済めばよいですが、脳卒中まで行かない様にすることが重要です。

漢方薬処方は、釣藤散(ちょうとうこう)、天麻鈎藤飲(てんまちょうとういん)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)など、緊張をほぐす漢方が、ファーストチョイスになります。

 

カミさんの場合は、日頃の「のんべえ」習慣が災いし、①番の、痰濁体質だったようです。竹如温胆湯を処方した所、1か月で症状が改善し、その後の再発も起きていません。

ただ、耳石による良性発作性頭位めまい症は、激しい運動などで、耳石が欠け落ちると、再び症状が出てきます。原因はまだよくわかっていませんが、加齢や女性ホルモンの低下が原因と考えられています。

もう少し経過観察が必要でしょう。