口内の鉄臭いニオイについて

 

最近、患者さんからの訴えで、「鉄臭い臭いがする」と言うお悩みを頂きました。今回は、備忘録としてまとめて見ました。

【鉄臭いニオイの発生機序】

例えば、金属皿、食器類、陶器、ガラスを嗅いでみて、ニオイを感じた事はあるでしょうか?

 

 

恐らく、「言語化」出来るようなニオイは感じないはずです。 

金属や陶器、ガラスは、化学的に安定した無機物なので、不快感を伴う揮発性のガスを発生する事はありません。

 

それでは、なぜ、鉄臭いニオイが口内で発生してくるのでしょう?

 

一つのヒントとして、例えば、小学校の時に、鉄棒を握って運動をした後に、手の平のニオイを嗅ぐと、血生臭いような、鉄臭いニオイを感じた事があると思います。 

 

 

その他には、日常生活の同じような現象として、鼻血が出た時、口のなかの血生臭い鉄臭さや、油が付いた中華鍋を、ゴシゴシ洗った時も、鉄臭を感じます。

 

この鉄棒を触った後に感じる鉄臭さは、

実は「1-オクテン-3-オン」(以後、鉄臭)という臭気物質が発生しています。

 

ヒトの体から出てくる皮脂腺の「脂分」(脂肪酸)と、「鉄分」が化学反応を起こし、その触媒作用によって、この臭気物質が発生してくるのです。

また、食品の中には、鉄分を多く含む食材があります。

 

●動物性の食品の方が多く、60%ほど含まれる「ヘム鉄」と、

●植物性の食品に含まれる、「非ヘム鉄」が有ります。

 

身体への吸収率は、ヘム鉄15~25%、非ヘム鉄2~5%と、動物性の鉄分の方が、吸収効率が高いです。それぞれ水溶液中では、二価の鉄イオン(Fe2+)と三価の鉄イオン(Fe3+)の形で存在しています。

 

ここで重要な点は、

 

動物性の鉄分は、有機化合物ヘム鉄の二価鉄と言う形で、人体はそのまま吸収できます。

 

これに対し、

 

植物性の非ヘム鉄は、三価鉄として存在している事から、このままでは吸収できず、ビタミンCや動物性タンパク質に含まれる消化酵素によって二価鉄に還元されて、はじめて吸収出来るようになります。

 

植物性の非ヘム鉄の吸収率の低さは、この理屈に由来します。

 

この事から、動物性の鉄分を多く含む食品を好んで食べる方の方が、口内の油分と反応して、瞬時に鉄臭が出やすい事が予想されます。

 

【鉄臭いニオイの予防法】

まず、鉄分の多い食材を、日常生活で、どの位摂取しているのか?検証する必要がございます。

 

●動物性ヘム鉄を多く含む食材(多く含まれる順)

レバー類、牛肉、カツオ、イワシ、鶏卵、アサリ、牡蠣など、

 

●植物性ヘム鉄を多く含む食材(多く含まれる順)

小松菜、ホウレンソウ、枝豆、そら豆、豆乳など、

 

かといって、こうした食材を、食べない訳にはいきません。そこで、鉄臭を発生させない、簡単な養生法が存在します。是非、お試しくださいませ。

 

① 酢・クエン酸を含む食材を、食事の最後に摂取する

② お米のとぎ汁でうがいをする

③ 重曹でうがいをする(1%重曹水)

 

これらを、取り入れると、鉄臭を予防する事は可能です。

 

また、こうした化学反応を経なくても、「1-オクテン-3-オン」を含む、そのものズバリの食材があります。

 

実は、それが、「キノコ類」です。

 

 

マッシュルーム・椎茸・松茸などの豊潤な臭いの中に、鉄臭の成分が多く含まれているので、もし、普段からこうした食材を常食する習慣があれば、上記の対策を試みて見ると良いでしょう。

 

【その他の注意点】

実は、皮脂腺と油分が反応すると、鉄臭が出やすいので、職種や生活習慣の中にも、鉄臭発生の原因は隠れています。もしかしたら、体臭との因果関係も検証していく必要があるので、気になっている方は、以下の実験をしてみる事をおススメします。

 

① 1日使った、ワイシャツ、下着類を全て脱ぎ捨てたら

② ごみ出し用のビニール袋に全部入れて、口を固く結んでおきます。出来るだけ空気を抜いてから密封するのがコツです

③ 翌朝、口を開いて、その臭いを嗅いでみる

④ 出来れば、家族にも嗅いでもらって、鉄臭の確認を取ってもらう

 

非常にまれなケースですが、食品の鉄分と、口内の脂肪が反応して、鉄臭が口臭として出てくる事は、確かに存在します。こうした臭気は、口臭測定器には検出してきません。

だからこそ、ヒト嗅覚による官能検査が必要になり、ニオイの言語化と同定が必要になって来る訳です。

 

また一つ、患者さんから重要な教えを頂きました。