呼気中に含まれる「アセトン臭」について

 

最近、患者さんからの問い合わせで、全くアルコールは飲まないのに、始業の時の飲酒検査で、

私だけ、何故か警告音がなってしまう…と言う問い合わせを頂きました。

 

相談された以上、安心できる回答を用意しなければなりません。

 

私のビジネスアドバイザーで、戦友・友人でもあるニオイ刑事の松林さんにも相談した所、

「どうやら、こういう事らしい」

と言う回答を得たので、ブログにまとめてみました。

 

まず、始業検査の時に用いる、アルコール探知機は、患者さんから詳しく効いたところ、「臭気計」である事が分かりました。

 

臭気計は、当院の様なガスクロマトグラフィー法を採用していないので、本物のアルコール成分だけを選別して、

抽出できる機能は備わっていません。

 

それでは、センサーに「ハ~」と、息を吹きかけた時に、測定器が、誤認識・誤検知してしまう成分は存在しないのでしょうか?

色々思案した結果、どうやら、これが疑わしい…と言うニオイ成分が同定できました。

 

当院のガスクロで測定すると、ガスの比重別に、ニオイの成分が選別されて行きます。

特定の臭いには、特定のピークが割り振られており、本物の口臭と、食材臭などは、「別の臭い」として区別します。

私自身の口臭測定の時間軸の生波形で見ると、

 

 

●最初の高いピークは、雑ガス(主に呼気中の二酸化炭素)が検出され

●その次の、2番目に高いピークが、アセトンに相当します。

(業者にも確認を取ったので、間違いない所です)

 

ニオイ刑事にも相談した所、どうやら、このアセトンが、アルコール成分として捕らえてしまった可能性が高いそうです。

●アルコールの分子式は:C2H5OH

●アセトンの分子式は:C3H6Oです。

 

このアセトンは、主に糖尿病が進行した時に、呼気中や体臭に出てきます。

バナナ臭のような臭気です。

 

ただ、ここで重要な点は、糖尿病性「ケトアシドーシス」の状態でなくても、尿や呼気中にアセトンが出てくる事です。

実は、ケトン体は、脂肪の分解によって発生する代謝物質です。糖尿病性ケトアシドーシスだけでなく、

脂肪の分解によって、多くのエネルギーが必要な状況になると、身体の中でケトン体が作られ、それが尿や呼気中に出てきます。

飲食物から摂取する栄養素の中で、エネルギー源となるものは、「糖」、「炭水化物」、「脂肪」があります。

この中で、最も効率よく、沢山のエネルギー量を有するものは、糖(グルコース)です。

身体の中に、充分なグルコースが存在し、同時にグルコースを利用できる環境下であれば、

私たちは、グルコースを使ってエネルギー源に充てていきます。

所が、状況によってグルコースが利用できない場合は、やむを得ず、たんぱく質や脂肪を分解してエネルギー源とします。

 

①インスリンが不足している場合

 

インスリンは、グルコースを細胞内に取り入れる働きがあります。糖尿病インスリンが不足してくると、

細胞内へのグルコースの取り込みが減少し、細胞がエネルギー不足になります。すると、たんぱく質や脂肪を分解して、

何とかエネルギーを充当する訳です。

 

②糖が不足している場合

 

血液中で糖が少なくなると、他の栄養素から、エネルギーを作る必要があります。

その結果、たんぱく質や脂肪を分解してエネルギー源とします。

上記の場合に、体内でケトン体が発生します。このケトン体は、エネルギー源として使われますが、

必要以上に発生し、使われなかったケトン体は、尿や呼気中に排泄されてしまい、糖尿病でなくても、ケトン臭が出てくる事があるのです。

もし、前述の患者さんが、職場の上司からお咎めを受けたときには、「申し開き」が出来ることを伝えて、安心してもらいました。