鍼灸とツボ指圧の違いについて

 

鍼灸師とあん摩マッサージ指圧師の資格は、厳密にいうと異なります。

この両方の資格を取得して、治療院を経営している方も大勢います。両方の資格を取得するには、それぞれ3年かかるので、

トータル6年を有する事になり、一般的な医歯薬と同じ年数をかける必要があるのです。

 

私は、歯科医師免許を取得した後、鍼灸師の国家資格を得ました。

鍼灸師も、あん摩マッサージ指圧師も、ツボへ刺激を加えていくことは同じです。ただ、針を使ってツボに刺激を届かせるのか?

体の外から、指などを使って、刺激を伝えるのか?で、施術法は大きく異なります。

今まで、鍼灸とあん摩マッサージ指圧と、鍼灸治療の間で、何が違うのかについて、深く考えたことはりませんでした。

一度、考察を加えておこうと思います。

 

【ツボと経絡について】

●ツボとは、鍼灸を施す皮膚上の刺激点を指します。ツボは、経穴、奇穴、阿是(あぜ)穴に分類されていています。

現代医学で考えると、ツボは、

 

① ヘッド氏帯の最高知覚過敏点である事が多く、「表在知覚点」に相当します。

② 小野寺氏圧点の様な「深部知覚点」にも該当します。

③ その他、患部の「過敏点」、圧痛点、関連痛点と一致する場合もあります。

 

●経絡は、気血衛営の運行する道筋と考えています。その臨床的意義は、鍼灸刺激の伝導路でもあり、

内臓疾患のあるときに、体の表面に変化として現れるポイントであると考えられています。

内臓の活動と。個々の臓腑の経絡とは、連携していると考えられていて、内臓疾患で起きた何らかの変化は、経絡上にあらわれ、

また、経絡に与えた刺激は、内臓に届いて反応が出てくると考えられています。

そして、経穴(ツボ)は、経絡上に存在し、生体反応が皮膚上に現れるポイントであり、経穴に刺激を与えると、

その刺激が経絡に伝わって患部に到達し、病気を好転させると考えられています。

実際、足の指にある「至陰」というツボに刺激を与えると、女性の子宮がグリグリ動き、逆子が治ったりします。

私も鍼灸の学校に通っている時に、足の三里のツボに針を打ったところ、胃が盛んに動いて、胃の内容物が、スーと腸に降りていく感覚を味わいました。

 

【あん摩マッサージ指圧について】

① あんまの治療技術と効果

 

古代中国に始まり、日本には奈良時代に伝来し、経絡を巡る気血の改善を目的とした施術法です。

その特徴は、体幹(心臓)から末梢に向かう「遠心性」の手技で、「もみほぐす」事に主眼があります。「按」は「おさえること」、「摩」は「なでること」を意味しています。

 

② マッサージの治療技術と効果

 

ヨーロッパで始まり、医療現場の補助的な施術として、広く応用される施術法で、日本には明治時代に渡来しました。

特徴は、オイル、パウダーを用いて、末梢から体幹(心臓)に向かう「求心性」の手技で「もみさする」事です。

この直接求心性の手技を加え、血流の改善などを目的としています。

 

③ 指圧の治療技術と効果

 

按摩・導引・柔道整復などが統合し、大正初期に生まれました「圧」を主体とした、日本独特の施術法です。

特徴は、「あんま」と同じく、体幹(心臓)から末梢に向かう「遠心性」の手技で「押して離す」事です。

指圧は、主に手・指で患部を押さえる手技療法で、ツボの反応点や患者さんの訴えに基づいて施術をしていきます。

基本的な効能として、神経・筋への機能増進作用に加えて、過緊張を取り除く事に主眼があります。その他、副次的に、興奮作用・鎮静作用・反射作用・誘導作用・矯正作用・運動療法の効果も期待できます。

 

【鍼灸治療とあん摩マッサージ指圧師の違いについて】鍼の治療技術と効果

④ 針の治療技術と効果

 

鍼を打たれた患部は、局所の神経の沈静・興奮、内臓機能・自律神経機能の調節、免疫機能が活性化されます。神経痛や神経過敏、自律神経の整え、肩コリや冷えなどの改善を図ります。

 

⑤ 按摩・マッサージと指圧と鍼は、何が違うのか?

 

あまり知られていませんが、

実は、マッサージでは、筋肉の凝りを完全に取り去ることができません。

これに対し、正しくツボに刺激が届き、鍼灸治療を施すと、筋肉の凝りを取り去ることができます。

 

マッサージは、凝った部位が、何となく気持ちよくなったと感じる程度です。

これに対し、鍼治療は、直接、筋肉や筋膜上に鍼を刺す時に、独特の響きを感じるところが、マッサージとの大きな違いです。

整形外科などで、CTスキャンなどの画像評価法で、神経・血管・骨や椎間板などの異常は診断できますが、

「筋肉の凝り」は、なかなか視覚化できません。この事から、筋肉の凝りが、疼痛になって現れた際は、

鍼灸の施術によって、除痛する以外に、改善する方法がない点が重要です。

さらに、指圧と鍼も全くの別物で、指圧は筋肉に対し、斜め、横から、斜め下から押すことで伸展させて、筋肉の血行を促進させます。これに対し、鍼は体内・ヒフに微小なダメージや刺激(キズ)を与える事で、軽度の炎症を起させることが目的です。

炎症とは発赤・疼痛・発熱・腫脹・機能障害のことを指します。それを施術によって、意図的に負傷を起させて、

自然治癒力を鼓舞して、血行を促進させ細胞の再生能力を活性化させるものです。

 

【老け顔対策の問題点】

 

以上の事から、老け顔対策で、マッサージをしようとする時と、以下の様な問題点が想起されます。

それは表面の筋肉だけを、マッサージ・指圧しようとすると、筋肉同士の摩擦が生じ筋肉がこわばります。

また、角質層や筋肉の位置が、強制的にズレが生じる事で、シワの起点が生じやすくなるリスクも生じます。

この、無理なマッサージによって、皮膚や筋肉のこわばりやズレが起きてしまい、それが老け顔の原因になってしまう事も充分考えられます。

加えて、顔の筋肉は過度に負担がかかると、もみ返しが起こる可能性があります。特に、過剰に筋肉が突っ張って硬くなっている時は、そこの一点だけの血流やリンパの流れを改善させることとなり、逆に、際立って他の部分が痛く感じる場合があります。

この場合、一点だけでなく全体をほぐして、筋肉をやわらかくする必要があります。

そして、下図に示すように、お肌の張り、潤い、たるみを予防する重要な皮膚組織は、「真皮」に存在しています。

お肌の張りはコラーゲン、お肌の弾力はエラスチン、潤い感はヒアルロン酸が担当しています。

さらに、基底層の部分でメラニンが形成されて、皮膚のターンオーバーとともに、表面に浮き上がって、シミ・そばかすとして現れてきます。

 

 

 

もう少し大きな視点で見ると、下図のように、

 

 

この真皮の下に、皮下組織があり、筋膜に包まれた筋層が存在しています。

そして、人体のツボは、この筋膜に存在する微弱電位に関係しているという学説があります。

東洋医学研究所、黒野保三所長が発表した研究論文では、鍼を筋膜の深さまで垂直に刺入し、筋膜を貫くことなく、

20g程度の圧を加えると、心拍変動解析を用いて検証した結果、副交感神経を有意に増加し、心拍変動が安定したと発表しました。

皮下の浅い刺鍼法(筋膜上圧刺激)でも、十分に治療効果が反映させることを証明しました。

 

また、経絡は、筋膜(ファッシア)であり、「生きた電気の綱」であるという説

英国人医師であるDr. Keown Danielは、ヒトの体には自然治癒力による再生能力が備わっていて、

その再生には、微弱電気が大きく関与しており、これこそが、東洋医学の「気」そのもので、全身を網目状に走行する電気が、筋膜であると提唱しました。

筋膜は、全ての器官(神経、筋、血管、臓器、骨、腱)を覆い、繋げ、真空パックのように包む線維性結合組織で、

複雑な三次元ネットワークを形成する事で、その緊張と弛緩により、伸展を受ける事で、全身の運動を促進させたり、

皮膚の刺激感受性に応答したりする役割を持つ。

 

筋膜の主成分はコラーゲンで、三重螺旋構造を持ち通電性特性があることに加え、ピエゾ効果によって、電気そのものを発生させる能力を有した「生きた電気の綱」であると説きました。

 

経絡が電気を通す筋膜で、経穴も通電性に富んだ部位だと考えれば、ステンレス針や銀針を。筋膜に届かせることは、もしかしたら電化製品と同じように「アース」を取っているのかもしれません。

 

 

 

この、微弱電気の疎通を図る…と言う点が、あん摩マッサージ指圧にはできない、鍼灸治療の優位な点であると言えます。