近年、パトムと言うお悩みが増えています。
PATMとは、「People (are) Allergic To Me 」の略称で、その意味合いは、
「人々のアレルギー源は私である」事に不安を覚える人の事です。
私が口臭治療をしていると、患者さんの中には、こんな訴えをしている方がいました。
【実例】
●私の耳たぶの裏から「くさいニオイを放つ粉」が出ている。スーパーのレジに並ぶときも、私の後ろには誰も並ばない。人に迷惑をかけていると思うと、不安で社会生活ができない。と訴える方がいます。
患者さんも口臭専門クリニックという事で、勇気を出して、私に打ち明けたのだともいます。
「それでは、耳の裏を見て、粉が付いているか見てみましょう」と申し上げた所、
「そんなの、やめてください。」「先生に迷惑をかけてしまうので、遠慮しておきます」などの、拒否反応を示します。
「そのお悩みを治療するために、ここに来たのですよね。私は大丈夫ですから、一度拝見してみましょう」と説得して、ようやく心を開いてくれました。
実際に耳の裏を見ても、粉々した感じはどこにもありません。
光を当てて、横から見ても、粉が舞い上がっている様子もありません。
「粉は噴き出ていないようですね」と申し上げても、
「そんな訳はない。これを見てくれ」と、指をさしたのは、
肩に付着している…フケでした
「それでは、本当に臭いが出ているか確かめるために、耳たぶの裏にシリンジの吸入口を当ててニオイを吸い取り、測定機にかけてみましょう」と受け答えすると、
渋々受け入れてくれます。
測定が完了するまで4分かかります。
患者さんは、食い入るように測定画面を見て緊張しているようです。
ピッとなって、結果が表示されました。やはり臭気は出ていません。
患者さんは、「そんな訳はない。この測定は間違っている」を言い出します。
この患者さんにとっては、
「ほうら、こんなに強い臭いが出ていましたよ」と伝えてあげた方が良かったのかもしれません。
「そうだろ!ようやく、オレの訴えを真剣に聞いてくれる先生を見つけたよ」と言う流れになったと思いますが、客観的な事実を変える事は出来ません。
PATMとは、社会生活をしていく上で、周りの人が、
●咳き込んだり
●顔を背けたり
●くしゃみをしたり、
●身体がかゆくなったり、
●涙目になったりする反応を見て、
あたかも、自分が花粉症の様な、アレルギー物質を周囲にまき散らしているかも?と、思ってしまい、不安と恐怖によって、対人関係がうまく出来なくなる状態です。
悩んでいる当人は、本当に真剣に悩んでいるのです。
誰にも打ち明けられずに、一人で闇の中でもがいています。
「そんな事ある訳ないでしょ」と、行ってしまうのは簡単です。でも、何か原因があるはずです。
【考えられる原因】
① 口臭と体臭
本人が訴え中で、最も考えられる原因です。前述の患者さんも、ワキガの検査、足の臭い予防など、あらゆる対策をしても改善しないので、
「もしかして、口臭かも?」という事で、当院に相談に来ました。
ただ、冷静に考えて、口臭の臭気である、揮発性硫黄化ガスが、対面の相手に、アレルギー症状が出る程の臭気を与えるとは考えにくく、別の原因がある事を考慮する必要がありそうです。
② 衣服から出てくる香料
私は、これが、一番の原因ではないか?と睨んでいます。以前、ニオイの害として、「香害」の話を安倍はつみ様から、お話を拝聴した時に、柔軟剤の香料を嗅ぐと、気分が悪くなり、寝込んでしまうくらい体調を崩す方がいると伺いました。
もし、アレルゲンを誘発しているのだとしたら、全く絵空事ではない事が世の中で起きている訳です。
特に注意しなければならないのは、アメリカでは禁止されている香料が、なぜか、日本ではスルーで使われている点です。また、商品の成分表示を見ても、配合成分は、「香料」としか記載されていません。
香料の中の成分と調合比は、メーカーごとに「マル秘」扱いで、細かい表示義務も存在しないので、ただ単に「香料」と記載されているだけです。我が国においても、その香料の…何にアレルギー感作を受けているか分からないのが現状です。是非、成分表示を明確にしてほしい所です。
③ 不安神経症、心身症の可能性
相手のちょっとした素振りが気になり、その挙動と、自らの要因を紐づけてしまう心理状態は、確かに存在すると思います。
私が過去に担当した患者さんは、
「電車の中に入ると、2つ先のドアに座っている人が、私の方をにらみ、咳き込んでいる事がある。先生、何とかして」と、進言する方がいました。
もし、そのような強烈な臭気を放っていたら、近くの方は、すぐに避けて距離取るはずです。ただ、問診をしても、そのような事は起きていないのです。
この方は、お住いのエリア周辺で、不安神経症の治療をしているクリニックに電話をして、受け入れ先を見つけて差し上げて、投薬治療をしたら、3カ月で、不安から解放されました。
PATMに関しては、ようやく医療の現場でも、その実態の把握が始まったばかりです。慎重に経過を見ていきたいと考えています。