患者さんからのチョットした問い合わせに対し、一つ一つ回答を寄せていく事が、このブログの目的でもあります。
最近、患者さんからの問い合わせで、
「皮膚をペロッと舐めた後に、皮膚表面がクサくなる…これって口臭だと思うのですが?」と質問されました。
そこで、お悩みを解決するために、またまた、ナンチャッテ実験をしてみました。
【唾液と反応して発生する…皮膚臭について】
人体は、色々な疾患に罹患すると、特有な臭いが出てくると言われています。
例えば
●麻疹のニオイは、ニワトリのケージの臭い。
●溶連菌感染症は、チーズ臭いにおい。
●花咲き乳がんは、たくあん臭。
●肺がんは、ホコリ臭いになどです。
こうした臭いは、炎症や膿瘍を抱えた部位の菌が作り出す臭いです。特に、
緑膿菌、大腸菌、黄色ブドウ球菌等は、独特の臭いを発します。
最も分かり易いニオイは、手の甲を、舌で舐めて、しばらくして乾いた皮膚を嗅いだ時の臭いに相当します。
何とも言えない、湿った雑巾臭、脱ぎたての靴下臭のようなニオイです
ここで重要な点は、このニオイを、自分の口臭と受け取ってしまう方がいる点です。
実は、色々汚い物を触ってしまう手には、多くの雑菌が存在し、その菌数は、
1平方センチ:4,600,000個もの細菌が存在しています。
石鹸で充分に手洗いをして、アルコール消毒を行ったあと場合でも、
1平方センチ:40,000個程度、菌は残留しています。
手に付着している菌は、大きく分けて「常在菌」と「通過菌」に大別できます。
●常在菌とは、皮脂腺や皮膚のシワなどに常時存在する菌で、最も多い菌は、表皮ブドウ球菌です。
●通過菌とは、大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌などで、感染症やカゼを引き起こす菌です。
【実験法】
① 唾液を綿球に採取し、しばらくしてから、唾液その物の臭いを測定する
まず、「唾液臭」と言うものが存在しているのか?を、調べます。結果は以下の通りで、
私の唾液その物からは気になるニオイは出ていませんでした。
●硫化水素「2ppb」メチルメルカプタン「1ppb」ジメチルサルファイド「1ppb」
殆ど、無臭といってよいレベルです。分泌された唾液その物からは臭いは出ていないのです。
② 唾液を綿球に採取し、皮膚に刷り込んでから、皮膚臭を採取して臭いを測定する
次に、唾液を綿球で採取して、皮膚に塗ってから皮膚臭を調べてみます。すると、本来の口臭の臭気は出ておらず、生波形の後半部に、口臭とは異なるニオイのピークが出ていました。(↓部)
●硫化水素「2ppb」メチルメルカプタン「5ppb」ジメチルサルファイド「0ppb」
当院の口臭測定器は、口臭に関しては数値化(定量化)できますが、口臭以外の数値は、生波形上には、ニオイとして出てきますが、「それが、何の臭いなのか?」判定する機能はありません。
そこで、試しに測定器の業者に、
「ここに出てくるニオイは、何の臭いが考えられますか?」と、問い合わせた所、
「皮脂成分に含まれるパルミトオレイン酸の可能性が高い」と言う報告を受けました。
実は、加齢に従い、過酸化脂質が増えると、ノネナールと言う成分が、皮膚表面に増えてきます。この成分が、皮膚表面に唾液が触れたことで、皮膚上で濡れてふやけて、皮膚の濡れ性が渇いて蒸発する時に、皮膚上に存在する、「通過菌」とも合わさって、特有なニオイが出てくるのです。
③ 皮脂腺が少ない皮膚の部位に、唾液を塗って、もう一度皮膚臭を調べてみる
それでは、身体の中で、皮脂腺が少ない部位(主に、乾燥してカサカサしている部位)に唾液を塗って、そこから出てくるニオイを採取して、皮膚臭を調べてみた結果が、以下です。
●硫化水素「2ppb」メチルメルカプタン「2ppb」ジメチルサルファイド「2ppb」
生波形後半部に、別の臭いは出ていませんでした。
皮膚が乾燥していて、皮脂腺が少ない部位は、通過菌も少なく、元々無臭の唾液が触れても、特有の臭いは出てこないのです。
【まとめ】
● 唾液その物は、ニオイを発する事はない
● 雑菌が多く、皮脂腺の多い所に、唾液が触れると蒸発する時に、パルミトオレイン酸と通過菌が合わさった臭気が出てくる
● 皮脂腺が少なく、乾燥した部位に、唾液を刷り込んで臭気を調べてみても、特有なニオイは出てこない
事が分かりました。
この事から、皮脂腺が多く、色々なものを触ったりする、雑菌が多い部位ほど、唾液と雑菌が合わさって、特有なニオイが出る事が分かりました。対策として、良く手洗いをしておけば、不快なニオイが出てくる事はありません。
【結論】
皮膚を舐めた時に出てくる臭気は、本来の口臭ではなく、手そのものに付着している、皮脂腺・雑菌の臭いを嗅いでいる可能性が高い事が示唆されました。
この臭いを、「自分から出てくる口臭」と、思いこまないことが重要です。