漢方薬は、なぜ効くまで時間がかかる?

 

患者さんからの問い合わせで、

「漢方薬は、効いてくるまでに、時間がかかりますよね?」と言う問い合わせを受ける時があります。

そこには、実は腸内細菌が、深く関与している…と言う所に焦点を当ててみましょう。

 

【配糖体と資化菌について】

漢方薬の成分の中には、生薬の主成分となる、「配糖体」と呼ばれる成分を持つものがあります。

配糖体は、文字通り、糖がくっ付いた物質です。

実は、生薬の成分は、配糖体の形になる事で、水との親和性が高くなる「水溶性」の性質を持つようになります。生薬の成分を抽出するためには、コトコト煮出して、お茶の様な形にするのは、水溶性の成分に導くためなのです。一般的に流通する、エキス顆粒なども、出来れば、水に溶かして水溶性にした方が、効果的に身体に取り込まれて行きます。

 

それは、なぜ「配糖体」の形で存在しているのか?というと、

 

諸説ありますが、植物の中で役割を失った生理活性物質に、糖が付加しやすいという考え方が、最も一般的です。

植物は、循環系や排泄系が、充分に発達していません。その為に、植物は、糖を付加する事で、活性を失う事が無いように、工夫しているのではないか?と、考えられています。

似たような働きは、ヒトの中でも起きていて、例えば、働きを終えた活性成分は、グルクロン酸などと抱合する事で、解毒や排泄がなされて行きます。植物も、これと似たような仕組みを持っている訳です。

 

この配糖体を持つ生薬成分は、一例をあげると、

生薬名 配糖体成分
甘草(かんぞう) グリチルリチン
柴胡(さいこ) サイコサポニン類
人参(にんじん) ジンセノシド類
大黄(だいおう) センノシド類
芍薬(しゃくやく) ペオニフロリン

 

この配糖体は、実は胃ではまったく影響を受けず、唾液中のアミラーゼや、胃のペプシンなどの消化酵素でも、殆ど分解されません。

さらに、糖が付いたままだと、腸管粘膜からも吸収されず、配糖体のまま大便として排出されてしまいます。せっかく服用した漢方薬も、薬効を発揮することなく、下から出てしまう訳です。

 

 

これは、植物内で役割を終えた活性物質の配糖体の構造は、ヒトの体内でも、同じように、そのままの形で、殆ど影響を受けないと解釈できるのです。

ここに、「漢方薬なんて、すぐに効かない」理由が隠れているのです。

それでは、どうしたら、薬効が早く出るように出来るのでしょうか?

 

【腸内細菌の資化菌の存在】

実は、大腸に到達した配糖体は、腸内細菌がエサとしてムシャムシャ食べて、糖の部分をもぎ取っていきます。その糖が取り除かれた残りの部分なら、腸管壁を透過できます。それが、門脈を通じて甘草に運ばれて代謝を受けて、薬効が出る仕組みになっています。

 

この、配糖体から、糖の部分をもぎ取ってくれる腸内菌の事を「資化菌」(しかきん)と言います。

 

一例をあげれば、甘草の配糖体のグリチルリチンは、資化菌により、グリチルリチン酸に分解された後、「脂溶性が高くなり」身体の中に吸収されて、薬効を発揮するのです。この事から、腸内に資化菌が多いか少ないか?が、漢方薬の薬効が早く出るか?の分かれ目になってくる訳です。

 

今月のブログでは、薬剤の服用法に関して、注意点を論じました。

それに加えて、漢方薬は、「食前服用」が推奨されます。何故でしょうか?

ここにも、配糖体の構造が関係してきます。

 

配糖体は水溶性が高い状態で存在しています。例えば、食後の服用だと、摂取した飲食物の中に、油成分が多いと、胃や腸内に油分が多くなって、水溶性の配糖体との馴染みが、さらに悪くなってきます。すると、配糖体が腸へ到達する流れに遅延が生じます。最終的に、吸収・代謝が、遅れてしまうのです。

資化菌の働きで、水溶性の配糖体が、脂溶性に性質に変化するのは、「腸内」に来たときである以上、その腸への到達をスムーズにするためには、胃腸内に何も食物が入っていない状態の方が、都合が良い訳です。さらに言うと、水溶性環境の方が、なお理想的なので、多めの水・白湯で服用するのがベストな訳です。

 

【自然界にも存在する資化菌】

実は、この資化菌は、自然界にも存在しています。例えば

● タンカーが座礁して、石油が海洋に流出した時も、海に存在する資化菌が、石油を分解してくれます。

● 植物の肥料を作る時に、堆肥発酵促進効果とアンモニアの発生抑制する事を目的として、アンモニア資化菌を添加する事で、植物の育成を補助する取り組み·

など、私達の見えない所で、資化菌は働いてくれているのです。