生薬の中には、「陳皮」(ちんぴ)と言うものがあります。抑肝散加陳皮半夏などの漢方に配合されています。
簡単に言えば、「ミカンの皮」です。特に、温州ミカンの皮を、天日に干し、古ければ古い程、薬効が高いとされています。
生薬で使う時は、フレーク状に粉砕して使います。
ミカンの皮には、「リモネン」と言う成分が入っていて、濃縮すると、オレンジオイルになります。柑橘系の良い香りがします。
実は、このオレンジオイルが、脂分をよく溶かすのです。日用品では、自動車のオイルを扱う整備士の方が、手を洗う時にも使いますし、家庭用の洗剤にも使われています。
歯科の分野でも、商品化されていて、「GPソルベント」と言う商品があります。
歯の神経の治療をする時に、神経の管にガッタパーチャと言う充填剤を注入するのですが、予後の経過が悪く、神経の再治療する時の溶剤として用います。その他、被せ物を仮付けした時に、歯の周りにはみ出たセメントを除去する時にも用います。
植物由来なので、身体に優しい成分として、安心して使用できます。
頑固な脂分を、サラッと溶解してくれます。
普段口臭治療をしていると、患者さんからの訴えで、
「測定値が下がったのは理解した」
「ただ、もう少しお口の中の粘着きを取り、スッキリさせたいいんだよ…」
と、訴える患者さんがいます。
患者さんの評価としては、以下の2つのケースで、
●お口の中が粘ついて→同時にニオイも出ている
●お口の中が粘つくものの→ニオイとしては出ていない
この2つの可能性をハッキリさせ、お口の中の違和感も改善させないと、口臭改善の実感が伴わない臨床例があります。
!!…もしかしたら、陳皮の成分が、お口の中の油分を溶かし、粘着きを取り去り、スッキリした感じを再現できるのではないか?と言う点に着目し、臨床応用してみました。
ただ、普段扱っている漢方薬は、エキス顆粒か錠剤が殆どです。
お口の中をスッキリさせるには、しばらくの間、口内に停滞させた方が、効果が持続するはずです。思案したところ、ちょうど良い商品を見つけました。
『カイギョク膏』(ウチダ和漢)です。
本剤は、中身はほとんど漢方薬ですが、種別は、発酵性食品の扱いです。
飲みやすいようにスティックタイプの包装です。
封を開けると、ネットリとした黒茶のペースト状の軟膏が出てきます。
イメージとしては、瓶入りのミキプルーンを思い出すと分かりやすいです。
甘みがあって美味しいです。お口の中の粘着きを取るには、摂取の仕方に、チョットしたコツが必要です。
封を開けたら、少量ずつ絞り出し、舌先ですくい取り、この軟膏で「雑巾がけ」するように、舌先で、コシコシ刷り込んでいくのです。
部位としては、上顎・上下の歯肉・頬粘膜などです。
すると、脂っぽい食品を食べた後などに感じる、何とも不快な、口の粘着きが分解されて、スッキリ感が出てきます。
もちろん、唾液で薄まった本剤は、そのまま、ゴックンしても全く問題ありません。
【構成生薬は】
●黄 精(オウセイ) ナルコユリの根茎
●枸杞子(クコシ) クコの実
●肉蓯蓉(ニクジュヨウ) ニクジュヨウの肉質茎
●人 参(ニンジン) オタネニンジンの根
●女貞子(ジョテイシ) トウネズミモチの果実
●陳 皮(チンピ) ミカンの皮
●桂 皮(ケイヒ) シナニッケイの樹皮
●海 馬(カイバ) タツノオトシゴ
になります。
胃腸の調子を健常にして、身体に元気を与え、免疫力もアップする効能が見込めます。
実は、さらなる効能も見込めます。こうした生薬の中には、「タンニン」が豊富に含まれています。このタンニンは、お口の中のムチンと結合し、ヌルヌルしたムチンを、お口の中から剥がす効果もあります。
以前もご案内しましたが、苦みは「味覚」ですが、渋みは「触覚」に近い感覚です。
ムチンが剥がれた口腔粘膜は、ギシギシ・ザラザラした感覚を伴いますが、口の粘着きを強く不快感を訴える患者さんにとっては、
「ヌメリが全部取れた感覚を初めて味わった!」と、すこぶる好評です。
口臭治療で重要な点は、ただ測定値を下げるだけでは不十分です。
お口の中の違和感も改善させてあげないと、患者さんの実感は伴いません。
その意味で、こうした生薬成分を応用する事の可能性は、今後、ますます求められるのではないか?と、考えています。