嫌気性菌と好気性菌

 

日常生活をする上で、私たちの体の外から侵入する細菌感染症は、殆どの場合、「好気性菌」です。空気がある所の方が、盛んに活動できる菌として、大腸菌、ぶどう球菌などがそうです。

 

細菌の分類には、幾つか種類があり、最も一般的なのは、グラム染色と言う染色法で、陽性・陰性の区別をする方法や、菌の形により、球菌・桿菌などでも分けられますが、「生育条件」と言う視点で分類すると、「好気性菌」と「嫌気性菌」に分類されます。

 

実は、ヒトの体内の常在細菌の99.9%は、嫌気性菌です。常在細菌とは、消化管、口腔内、生殖器などに、常に存在する菌叢です。こうした菌は、我々が日常生活を送る上で有益な点が多く、嫌気性菌のおかげで、皮膚上、腸管内で、身体にとって、有害な細菌の侵入を防いでくれています。

 

加えて、腸管内では、食品中の栄養素を分解したり、上皮の再生を手助けしてくれていたりします。一方で、粘膜の損傷部位から、嫌気性菌が侵入して、膿瘍や壊疽など、重篤な感染症を引き起こす一面もあるので、油断はできません。

 

この嫌気性菌について、もう一度まとめておきたいと思います。

 

嫌気性菌には、通性嫌気性菌と偏性嫌気性菌に分けられ、完璧に空気がダメな菌と、空気があっても大丈夫な菌に分けられます。 

 

嫌気性菌は、空気が届きにくい所を好んで生育しています。大きく分けて、

●横隔膜より上と

●横隔膜より下で、分ける事が出来ます。 

 

【嫌気性菌感染症の特徴】

①  混合感染である事が多い

②  膿を持つ膿瘍を形成する

③  臭気を放って、一度嗅いだら忘れられない位のニオイを作る

④  実験室内で培養する事が難しい

⑤  小児感染は非常にまれ

 

●嫌気性菌は、単独で感染することは少なく、殆どの場合、混合感染する事が多いです。この事は重要で、抗生物質などを処方する際、単独の菌を退治する抗菌スペクトルではなく、ある程度、広範囲な抗菌力を持つ処方を考える必要がある点が重要です。

●膿瘍を形成する為に、抗菌薬だけでは不十分で、切開排膿により、外気と交通させ、排膿路の確保(ドレナージ)も必要になります。

●腐敗臭のような、特有のニオイを発し、温泉の様な卵が変質した時の様な、独特の臭気を発するので、このニオイだけで、診断が出来る位、重要な指標になります。

●好気性菌より嫌気性菌の方が、研究室レベルで細菌培養がしにくい一面があります。

 

【嫌気性菌に対する抗生物質】

横隔膜より上である口腔内の嫌気性菌には、アンピシリン/スルバクタム/クリンダマイシンなどを使用します。その他で、横隔膜より上の嫌気性菌感染症で注意が必要な症状は、なんといっても誤嚥性肺炎です。その他は歯原性感染症です。歯周病が作り出す毒素が身体の中に入り、重篤な細菌性心内膜炎や菌血症を引き起こします。いったん体の中に入った嫌気性菌は、非常に厄介で、治療が難しい一面があります。

 

嫌気性菌が「悪さ」をする時は、必ず素因が隠れています。それは、飲食の不摂生、睡眠不足、過労、ストレスなどにより、身体の中で、火山活動が活発になり、ボカンと大噴火を起こすのです。一旦、大きく腫れてしまうと、口腔内であっても、処置が大変になります。

 

私が、学生時代の臨床見学では、口内の切開だけでは排膿が不十分で、首筋の顎の外から切開している症例もありました。症状の始まりは、心臓の拍動に連動した、「ズキズキ感」から始まる事が多いので、少しでも変調を感じたら、早めに受診する事をおススメします。