大正11年生まれの母親は、94歳になっても、現役の歯科医師です。
やはり、人と交流を持つ、手先を動かす、経営をするという行いは、ボケ防止につながるのだと思います。そんな母親ですが、近年、やや耳が遠くなってきました。
息子の私は、会話をさせるために「やや大きめの声」を出します。
すると、決まって母親は、「そんなに怒らないでよ!」と言ってきます。
かといって、小さな声で話すと、話した内容を確認するように、オウム返しで同じ内容の会話が戻ってきます。
私の場合、普段あまり大声で話す方ではないので、無理して声を大きくすると、なんだか怒っているように聞かれてしまうのです。
今回は、大声を出しても怒っていないようにする為の、声の出し方について考察します。加えて、難聴に対する漢方処方も考えてみましょう。
【感情と声色】
日本人は、会話の中の微妙なニュアンスを、声の雰囲気や声質、声色で、何となく察する習慣があります。
「そうですね」
「そうですねぇ」
「そうですねっ」
「そぅ~ですね」
など、相手に与える印象も微妙に異なります。
これに加え、
●ドスの効いた力強い声を言ってしまうと「あの人は怖い、絶対に怒っている」
●吐息混じりで、途切れ途切れで発生すると「あの人は、何か悲しそう」
その発声法と、その人の気持ちが同じであれば、正しく思いは相手に伝わります。
世の中の会話の全てが、「イヤよイヤよも、好きの内」ではないのです。
問題は、意図した発声と、伝えたい気持ちにズレが生じた時です。
例えば、「ハキハキと皆に通る声で話そう」と話したつもりが、実際には「言葉が強く、怒っているのでは」と受け取られてしまったり、「落ち着いた声で優しく話そう」と話したつもりが「疲れていて元気がないのでは」と受け取られたりした時です。
【自己認識と他人の認識】
自分が話している声は、口腔内で共鳴し、内耳共鳴と骨伝導を通じて、自分の声を認識します。
一方、その声が、相手に伝わる時は、空気中のチリ・微小な物質が振動する事により、音は伝搬します。
自分が認識している声と、相手に伝わる声には、違いがあるのです。
スマホのボイスレコーダーで、自分の声を録音して聞いてみると、「オレって、こんな声だっけ?」と思う時があります。ただ、その再生される声質も、小さなスピーカーから出てくる音なので、それさえも、本当の声ではないので、あくまでも、相対評価でしかないのです。
【怒っている…と思われない自然な声の出し方】
それでは、どうしたら、怒っていない様に会話をする事が出来るのでしょうか?
●話す時に余計な力みを抜く
怒っていると思われてしまう方の特徴は、「声が通る」「鋭い声」の時が多いです。
普段の声の音量よりも、大きな声で話そうとすると、優しい声質ではなく、鋭く声質になってしまう時があります。この時に、「怒っている」と思われてしまうのです。
自分自身の事を顧みると、
「あのねっ」と言うように、小さな「ツ」を入れてしまう時が多い様です。
これを「あのねぇ」と言うように、語尾に小さな「エ」を入れるように心がけるだけでも、鋭さが取れて、会話の内容が優しくなっていきます。
●語彙に間をとる
怒っている印象は、会話のスピードにも現れます。
何とか相手に思いを正しく伝えるために、早口で話してしまいがちです。語彙と語彙の間に、「、」を入れる事で、相手に考えるための余韻を残すのです。
矢継ぎ早に話すのではなくて、自然とゆっくり目に発声するようになります。こうする事で、だいぶ怒った印象は軽くなっていきます。
【難聴に効く漢方薬】
聴力は、五臓の中で「腎」が受け持ちます。腎は成長発育と老化を司ります。
腎の気が満たされていれば、難聴は起きにくいです。加えて、耳の血流が滞ると、聴力に影響を与えるので、「肝気」のうっ滞を疎通する必要もあります。加えて、内耳のリンパ液の還流がネバネバしてくると、難聴と同時に、ふらつきなどの症状も出てくるので、転倒防止も見込めます。
推奨される処方
●腎気を補う…八味地黄丸(はちみじおうがん)、 六味丸(ろくみがん)
●肝気を補う…釣藤散(ちょうとうさん)、抑肝散(よくかんさん)、小柴胡湯(しょうさいことう)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
●痰湿を取り去る…桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)
などを、症状に合わせて処方します。
この喋り方は、日常臨床にも応用できそうです。還暦過ぎのオヤジですが、こわい先生と思われないように心がけたいものですね。