生薬と新素材

 

普段漢方処方でお世話になっている「ポスト薬局」さんは、本物の生薬をグツグツ煮出して有効成分を抽出する、「煎じ漢方薬」にも取り組んでいます。

 

ザラザラしたエキス顆粒漢方と、お茶のように煎じた漢方薬の違いは、コーヒーをイメージしてみると、分かりやすいです。顆粒状のインスタントコーヒーもお手軽で美味しいですが、本物の豆から挽いたドリップコーヒーも、深い味わいがあり、本物志向です。

 

ポスト薬局さんに見学に行ったところ、生薬を保存する棚を見せてもらいました。

普段、あまり目にする事のない本物の生薬を、目・臭い・質感で感じ取ります。

 

すると、身体の中の水毒をさばく生薬は、物性も乾燥してフカフカして軽い感じがしますし、身体の中を潤す生薬は、質感もシットリしています。血液を補血する生薬は、赤々とした色味があったり、便通を整える生薬は、何となく便の色と同じように黄色~茶色の生薬が多かったりします。

 

生薬の特性によって、重かったり、スカスカだったり、その特性を見れば、おおよその効能が予測できます。

 

そんな中で、「ツリガネダケ」と言う物があり、木に寄生するサルノコシカケ(茯苓)に近いキノコ類です。サルノコシカケと言うくらいですから、物性的に強固なのに、フカフカ・パフパフな素材なのです。実は、このキノコが、新素材として役に立っているらしいのです。

 

 

実は、この菌糸体と細胞壁の成分である天然素材「キチン」が、新素材として注目されているのです。生薬の新しい活用法です。

 

 2023年2月22日に『Science Advances』で掲載された研究報告によれば、ツリガネダケは、軽いのに頑丈な性質を持ち、なぜ頑丈なのか?X線などで、その内部構造を解析しています。

食用には適しませんが、多孔質で乾燥した質感により、欧米では、バーベキューの火起こしに応用されていました。

 

【ツリガネタケの構造】

検査の結果、ツリガネタケは「硬い外皮」と「泡状の層」「密度の高い中空管」の3層構造である事が分かってきました。3層とも、同じ菌糸体で構成されているので、それぞれの構造と密度を変えてあげることで、強固な特性を発揮できるようになっています。

一般に材料の強度を得るためには、物性の密度を高める必要があります。スポンジは柔らかいですが、金属は堅いことでも容易に察しが付きます。つまり、強度を高めようとすれば、「重くなる」一面があるのです。

 

ツリガネダケの「軽くて」「強い」物性を応用すれば、例えば、

 

「防弾チョッキ」「飛行機の翼」「ビルの骨格」「自動車の車体」に活用できるかもしれません。

 

この頑丈な部分は、キノコにとって、「子実体」に相当します。

キノコの本体は、栄養源になる土や木の中に伸びていく微細な糸状の菌糸から構成されます。この菌糸は、葉緑素を持たないので、自らは栄養分を作る事が出来ません。そのために、必ず何かに寄生する事で成長していきます。最終的には、繁殖に必要な胞子を作るために、子実体と呼ばれる「笠」を形成します。

 

つまり、植物で見れば、菌糸は、葉と茎と根に相当し、子実体は花、果実に相当するのです。

この「葉」と「茎」と「根」をいっぺんに併せ持つ点が、キノコの強度につながっていると考えられています。

 

これからも、生薬の持つ不思議な構造は、実は、さまざまな産業にも応用できる可能性があるのです。