ファシアと経絡

 

今月のブログで解説した「テンセグリティ構造」には、「ファシア」と言う概念がベースになっています。ファシアとは、「膜」の事で、臓器、骨、筋肉、脂肪、靭帯、血管、神経などの組織を包む膜構造の総称です。

 

筋肉は薄い膜で包まれています。鶏肉を調理する時に見る事が出来ます。この「筋膜」もまたファシアの一つです。

 

非常に面白いのは、ファシアは、全て組織を分割し、同時に連結もしている所です。

このファシアが、東洋医学の未解明だったところを解明できそうなのです。

 

東洋医学に接していなくても、「陰陽」とか「経絡」「五臓」と言う言葉は聞いたことがあるでしょう。

 

これは、小が集まって、大を構成し、また、大きな部分で起きた事象が、小へ波及するという東洋思想を表しています。

 

人体は、生命活動を行う一個体として考え、各臓腑や器官が、各自で稼働し連携を取り合って維持していると考えます。

 

具体的には、肝・心・脾・肺・腎の五臓と、小腸・胆・胃・大腸・膀胱・三焦の六つの管状の中空臓器と、脳・髄・骨・脉・子宮といった「奇譚の腑」が加わって、人体が構成されていると解釈しています。

 

 

その中で、「三焦」だけは、漢字を見ただけでは、何のことだかイメージできません。上中下に分かれています。鍼灸の学校の授業で説明を受けても、イマイチ、理解できませんでした。

 

「三焦」というのは、横隔膜より上の「上焦」、横隔膜より下で、臍より上の「中焦」、臍下の「下焦」から成ります。

 

全身の気や体液を全身に循環させ、各臓器へ栄養を供給する器官として、東洋医学では認識されています。

 

しかしながら、人体解剖をして、目を凝らして隅々まで観察しても、こうした構造が発見できません。この事から、数千年間、

 

「名前があっても形なき臓器」と呼ばれてきました。

 

ところが、数年前、ニューヨーク大学医学部が論文を発表され、東洋医学を標榜するものは、

「おぉ!」と、注目を集めました。

 

この論文によると、皮下にある、臓器や血管、筋肉を包む「疎繊維結合組織」は、今までは、単なる衝撃緩衝材として考えられていました。

ところが、この組織は、リンパ液を介して、全身にネットワークを張り巡らせている、経路である事が分かり、「新たな器官」として観察されたのです。

 

従来の顕微鏡技術では、死んだ組織をホルマリンで固定して観察していました。この事から、体液が流れは止まり、周りに滲み出ていました。リアルな生命活動を見る事が出来なかったのです。加えて、体液を囲むタンパク質の網目構造も、萎縮してクシャっとなった状態で視認していました。

 

しかし、組織が生きたままの状態で観察できる顕微鏡が出来た事により、従来の組織学・解剖学・生理学とは合致しない、新たなネットワークを構築する「空洞」を発見することができたのです。

 

この器官は「Fascia(ファシア)」と命名されました。身体全体を包括する体液の移動通路として働き、各身体組織を相互にバランスを取っている事が分かってきました。

 

これこそが、古来より指摘されていた「三焦」そのものだったのです。

 

 

【なぜ、このファシアが重要なのか?】

ファシアは、ストレス、運動不足、同一姿勢の継続、不良姿勢、怪我や手術、炎症によって負荷がかかると、伸張性や滑走性が徐々に低下します。すると、動かせる範囲が狭くなり、可動域制限が起こります。

 

最終的に、ファシアが水分不足に陥り、「ズレ」「よれ」「ねじれ」が生じる事となり、隣り合った組織との間に「癒着」が起こります。

 

そして、癒着を起こしたファシアには、痛みを感じる受容器が集まりやすくなり、結果的に、疼痛を招く事になります。

 

長時間のデスクワークやスマホ操作により、腰痛や肩こりが起こるのは、筋膜性疼痛症候群と呼ばれています。これは、筋肉を包む膜「筋膜」の異常から起きる痛み・痺れなどで、我が国では「筋痛症」とも呼ばれます。

 

癒着が起これば、表情は乏しくなり、ほうれい線や小じわが増えて、老け顔に傾きます。スマホブスの完成です。

 

 

【ファシアとトリガーポイント】

筋疲労や血行不良を放置しておくと、侵害受容器が過敏になり、過敏化した侵害受容器が、トリガーポイントを形成していきます。

 

トリガーポイントとは、「発痛点」という意味です。

この場所は、しこりのように硬結して、痛みを感じることが多いです。

 

治療は、筋膜リリースや筋膜マニュピレーションの施術を行います。

 

【ファシアと口臭】

身体の中は、完全な閉鎖した空間です。ファシアの流れる体液も、滲み出たり維道したりすることはありますが、絶対量はそれほど変化していないはずです。

 

所が、歯周組織と歯牙から構成される「歯周ポケット」周囲は、半解放性です。一部が開いた状態で成り立っています。

 

歯の周囲には、歯根膜、環状靭帯、結合組織で構成されています。

 

もし、このダム構造が決壊し、ここから浸出液や体液が漏れ出ているとしたら、骨植は失われ、炎症が起きてくるでしょう。最終的には、炎症性代謝産物をエサとして、口臭発生菌が一気に増殖し、口臭が出てくる事が予想されます。

 

ファシアの漏れ出る出口が、歯周組織ではないか?と、睨んでいます。