菌が金に関与していた。菌と漢方について

 

https://wired.jp/2017/05/26/making-gold-microbe/ より引用

 

「自然界では、金は生物地球化学的な風化作用によって、地表や堆積物、水路の中に入り込み、それから海に行き着きます」。研究の著者のひとり、フランク・リースは言う。「しかし、なかには金を溶かし出し、濃縮させる微生物がいます」

10年以上前から、オーストラリアの研究者たちはこの微生物たちがどのように金を変化させるかを解明しようと試みてきた。この変化が、わずか数年から数十年で起こるらしいのです。

 

 

無限に続く大宇宙の時間軸から考えれば、ホンの一瞬の時間です。

もう、バカスカ、金は菌が作っていると言っても過言ではありません。

 

研究では収集された金を分析し、微生物が行う生物化学的プロセスを調べたところ、3.5〜11.7年で、金は生み出されているという事です。

 

この菌との「共存」と「戦い」は、漢方の世界でも、永遠のテーマでした。先人の方は、菌による感染症に対して、どの様に対応してきたのでしょう? 

古来より、「感染症」や「伝染病」によって、多くの死者を出してきました。

生薬学は、死者を出す程の感染症には、とても無防備で、命を助けるほどの効能は、なかなか生み出す事が出来ませんでした。そこに先人の苦労が伺えます。特に、近年、抗生物質が発見され、結核患者に著効した事により、一気に、感染症対策には、西洋医学が重用される事となりました。

ただ皮肉にも、この抗生物質が連用されたことにより、殆どの抗生物質が効かない、「耐性菌」を生み出す事となり、今また、東洋医学が見直される時代になってきました。

 

実は、抗生物質を作る時は、目標とする菌より拮抗する物質が生成されます。この事から、必然的に、耐性遺伝子が組み込まれてしまうリスクが内在する羽目になります。

 

【漢方薬と感染症】

漢方医療は、約2000年前より伝承される「古典医療」です。その存在意義は「西洋医学」の足りない点をカバーしており、古くて新しい側面を担っています

特に、漢方の古典「傷寒論」(しょうかんろん)においては、当時は、その概念すら確立されていなかった、「ウイルス」や「細菌」による感染症に対しても、その治療法が記述されています。

 

病態が分からないからこそ、免疫力を鼓舞する方向に、知恵を絞ったのです。

 

傷寒論の中には、上気道感染症である「風邪」に対し、患者が辿る病状の変化を、詳細に観察し、症状の変化を記述しています。

 

最初は、何だかわからない「外邪」が、身体に入ろうとしている時期を、「表証」を解釈し、悪寒・くしゃみ・倦怠感・毛穴ゾワゾワ・関節の節々が重だるい…などの、「あれっ、風邪でも引いたかな?」と言う症状が出てきます。

 

いわゆる、外寒表証の時期です。

 

やがて、その病邪は、身体の中に入り、下痢・高熱・頭痛・身体の随所がズキズキ痛む…などの、重い症状が出てきます。

 

現代医療で解釈すれば、粘膜に感染したウイルスや菌は、血液中に入らない様に、最初の防御機構が働きます。その最前線では、感染した粘膜細胞は、自己犠牲で破壊されます。すると、それを貪食した樹状細胞(マクロファージ)が、サイトカインと言う情報伝達物質を放出します。この情報を抗原が分析し、Tリンパ球が結合して、どんどん「サイトカイン」を放出するに至ります。最終的に、この情報が、視床下部に働き、身体の中に発熱を起こすようになります

 

難しい事は抜きにして、2000年間の先人は、この「発熱」こそが、病邪を退治している…と、解釈しました。

 

そうならば、外寒表証の時期に、積極的に発熱させれば、風邪は、身体の中に入らずに、出ていくのでは?と仮説を立て、身体が、温まり火照る生薬を模索する事になりました。

 

「葛根湯」の誕生です。

 

発熱によって活性化したマクロファージは、貪食した細胞から、抗原をTリンパ球に対して、ドンドン提示していきます。最終的に、Tリンパ球は、サイトカインの放出を繰り返し、Bリンパ球を刺激して、ジャンジャン抗体を産生し、ウイルスや菌を退治してくれます。

 

ただ、風邪(ふうじゃ)が、表証を通り越して、身体の中に入った時には、葛根湯では太刀打ちできません。臓腑の症状により、きめ細かい処方を考える事になります。

例えば、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、補中益気湯など「柴胡剤」によって、リンパ球のBRM(biological response modifier)を鼓舞して、リンパ球の機能をアップして、抗体産生を促す処方に変えていきます。

菌は、金を生み出すのと同時に、生薬学も発展させました。

結局、目に見えないものが「最強」なのです。