アマプラの「沈黙の艦隊」を視聴、水圧と生薬

 

アマゾンプライムで「大沢たかお」主演の沈黙の艦隊を視聴しました。潜水艦ドラマに外れナシ…と言うくらい、息苦しい展開が続きます。

 

潜水艦の中で従事する「ソナー師」は、海水の中を伝わる、微妙な音源から、相手の動向を察知します。

 

水圧によって、船体がきしむ音が出たり、浸水したりするシーンは、スリル満点です。

 

海中には「水圧」が存在します。深度が深くなれば、潜水艦は、水圧に耐え切れなくなり、爆縮を受け圧壊し沈没します。恐ろしい程の圧力が、1平方センチに加わるのです。同じように、大気中には「大気圧」が存在します。季節の変わり目や、台風の接近などで、大気圧が変動すると、何となく体調が優れないな…などの変化で、大気圧の変動を知覚します。ただ普段の日常生活では、自分の身体がクシャっと潰れてしまうほどの圧がかかる訳ではないので、ハッキリとは自覚できません。

 

実は、この圧の変化は、身体の中でも起きています。その不調和により、体液の循環が悪くなり、むくみや眩暈、倦怠感や関節痛などの変化が始まります。そして、その不調和を補正するために、漢方薬が有効な時もあるのです。

 

今回は、身体の営みが、圧力とどのように関係しているのか?そして、漢方薬が、どの様に補正しているのか?について、考察してみましょう。

 

【五苓散とアクアポリン】

漢方の業界では、「五苓散」(ごれいさん)と言う漢方薬が、身体の水分調節に働き、浮腫みを改善したりする作用は、昔から知られていますが、近年、西洋医学の分野でも、脳浮腫や慢性硬膜下血腫などの症例にも臨床効果が見込まれるようになっています。

 

漢方薬の古典である、傷寒論や金匱要略(きんきようりゃく))の記載では、体内の水分代謝の局在を整え、浮腫状態では利尿作用、脱水状態では、抗利尿作用を発揮すると、記載されています。

水滞・水毒症状に対し、「利水効果」が指摘されていますが、今日に至るまで、どうしてそうなるのか?の、その薬理作用に関しては、殆ど検証されてきませんでした。

その中で、五苓散には、水チャンネルと言う、アクアポリンに対する「阻害作用」があるのではないか?と言う仮説が出てきました。

 

【五苓散におけるアクアポリンのメカニズム】

日常生活において、人間は、1日に2リットル前後の水分を、汗・尿などで、身体の外に排出しています。それと同時に、補給する目的で、飲食物によって、水を補給しています。

ところが、面白い事に、身体の中で起きている水分代謝は、腎臓の糸球体と言う所で、なんと、1日に約180リットルもの体液が、ろ過と循環を繰り返し、その98%もの水分を再吸収しています。

 

なんと無駄な作業をしているもんだ…と考えますが、実情はそうでもないのです。

 

この「行って来い」の仕組みを維持しているのが、水チャネルのアクアポリン(以下、AQP)ADPは、赤血球の膜タンパク質で確認されます。スゴイのは、この働きは、目に見えない細菌類だけでなく、動物・植物に至るまで、自然界に多く存在する仕組みである事が提唱されました。

 

【利水薬としての五苓散】

五苓散の作用機序は、血中の電解質濃度に影響することなく尿量を増やします。また、体内の水分が多い時に、尿量を増加させ、不思議な事に、脱水状態では、むしろ尿量を減少させる効能を有しています。

 

一般的に、西洋医学では、尿量増加作用の作用機序は、腎血圧上昇により、糸球体濾過量の増加かと、電解質の再吸収阻害による原尿濃縮抑制の2 通りしか知見がありませんでした。

しかしながら、五苓散の作用機序は、どちらにも該当しないのです。

特に、五苓散の構成生薬の中で、「蒼朮」に最も強い細胞膜水透過性抑制作用が確認されています。細胞膜内外の水は、電解質の移動に伴う浸透圧勾配によって移動することから、五苓散が電解質の移動に、何らの影響を与えている事が考えられます。

 

漢方でいう「水毒」は、その局在により、その場所で、病理産物を生み出し、その一つが、口内で発生する「口臭」につながってきます。この水毒は、水の「貯留」と「分泌異常」も含まれます。

 

正に、この働きの部分に、西洋医学の「AQP」が、関係している事が解明されてきました。

 

五臓の中で、「腎」に負担がかかると、「腐れクサい」ニオイが出てくると解釈されています。このニオイの発生を、「圧」という側面から見直すと、口臭治療に新しい側面が出てくるかもしれません。