口臭治療をしていると、患者さんの中には、物の臭いを嗅いだ時に、そのニオイに異なる評価をしてしまう方がいます。そして、他人とは異なる嗅覚により、自分には口臭があるんだ…と思い込んで、当院を来院されるケースがあります。
これは、一般的には、「異臭症」に分類されます。
異臭症とは、嗅覚異常の一つです。「刺激性異臭症」と「自発性異臭症」の2つがあります。
●刺激性異臭とは、嗅神経に臭いの刺激が入った時に、それを異なるにおいである認識してしまうケースです。時に、嗅覚の感覚が鈍り、どんなニオイを嗅いでも、全て同じにニオイと感じてしまう場合もあります。
●自発性異臭症とは、実際には、臭気を放つものがないにもかかわらず、ニオイを感じてしまう症状です。
この原因は、まだ完全には解明されていませんが、嗅覚情報が脳の中に入った時に、異なる筋道で、ニオイを感じてしまうからと言うのが指摘されています。
コロナウィルス蔓延した時に、「ニオイを感じない」と言う症状が現れ、最終的に、嗅覚に麻痺が残り、異臭症になってしまう方が増えています。その他、風邪などの感染症後や、脳への外傷、アレルギー、薬剤の副反応、脳腫瘍、加齢なども原因として挙げられています。
実は、ニオイの情報は、味覚とも密接に関係して、コロナの症状で、味覚を感じなくなった時に、異臭症に移行した症例もあるようです。なかなか定量化できない部分なので、医療機関でも、治療法が確立されていないのが現状です。
ヒトには、五感があり、視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚があります。この中で、嗅覚の感覚が失われても、日常生活に大きな支障が無い事もあり、保険診療の受け皿の無く、研究も進んで言うとは言い難いです。
異臭症と間違われやすい症状として、
●嗅覚過敏
女性の場合、更年期や妊娠によって嗅覚が過敏になっている状態です。「つまり」が起こるのも、嗅覚が過敏になっているからで、ラーメンのニオイを嗅いだだけで、不快に感じてしまう場合があります。
●自己臭症、幻臭
実際は臭いを出してはいないのに、自分自身の口臭や体臭が臭っていると、過敏に思い込んでしまい、それが、日常生活に支障が出てしまう程、気になってしまう症状です。主に、心因性・不安神経症・心身症・統合失調症なども原因として存在しています。
●鉤回(こうかい)発作
「てんかん」患者の症状で、発作が出ている時に、脳が異常興奮する事で、本来は存在しない臭いを感じる時があります。
【対処法】
ヒトは、犬程、嗅覚細胞が多くは無いので、幾らトレーニングしても、嗅覚が劇的に回復する事はありません。ただ、鼻に炎症があると、ニオイを上手く嗅ぐ事が出来なくなるので、鼻炎・副鼻腔炎の治療は重要です。
漢方処方では、以前にも紹介した、
●麗沢通気湯加辛夷(れいたくつうきとうかしんい)
●排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)
●辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)
などが、ファーストチョイスになります。
異臭症の患者さんは、耳鼻科や心療内科と連携する必要がありますが、立ち遅れていると思います。